契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
クイーンクローバー号には乗客が長旅を楽しめるよう、様々な施設がある。

レストランやBAR、カフェなどの飲食に関わるものだけでなく、スパ施設や、ショーが見られる大ホール、シアタールームに至るまで、まるで船上がひとつの街のようになっているのだ。
 
取り分け五階のメインダイニングは、大規模なパーティにも耐えうる人数を収容することができる。

そこで、クイーンクローバー号就航式典は華やかに執り行われている。
 
まずは、オーナーとして和樹が挨拶をした。正式には社長は彼の父親だが、後継者指名を機に、徐々に権限を移行しているという。

この日は和樹がホストを務めることで正式な後継者は彼であるということを世界中にアピールする狙いもあるという。
 
世界中から集まったVIPたちの注目を浴びても一切動じることなく、堂々と彼は挨拶をした。
 
その後、クイーンクローバー号の紹介がありクローバー号が誇る料理がゲストに提供される。立食パーティーである。
 
楓は彼と共に、各ゲストに挨拶をして回った。

頭に叩き込んだゲストの情報と英語力で、どうにかついていけているかどうか、というところだが、とにかく笑顔だけは忘れないようにした。

「疲れたか? つらくなったら君はいつでも休憩に入っていいからな」
 
ゲストが途切れたほんの一瞬の隙に、彼は楓を気遣うような言葉をくれる。疲れは感じなかった。

とにかくやり遂げたいという思いだ。
 
自分の印象は、彼の評判に直結する。もともと彼の評判はすこぶるいいのだから、とにかく自分のせいで彼に迷惑がかかるのは嫌だという一心だ。
 
——つらいのは、別の部分だった。
 
背中に回された大きな手と心配そうに自分を見つめる眼差しを、本当の愛情のように感じてしまうことだった。ただの夫婦のフリに胸を高鳴らせてしまう自分だ。

「大丈夫です」
 
にっこりと笑顔を作る。
 
彼は「だが、一旦は……」と言いかける。そこへ。

「和樹君、今日はお招きいただきありがとう」
 
和樹の父親くらいの年齢の男性から声がかかった。

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