契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
彼女が誰かと会っていたとして、自分には、相手が誰かを詮索する資格も、それについて意見をする権利もない。
 
和樹は目を閉じて、自分の中の暴れ出す感情と戦った。
 
誰かを愛するという想いは、こんなにも人を狂わせるものなのだ。それを今痛感している。
 
かつて付き合ってきた恋人たちの中には、和樹の愛を疑って誰彼構わず嫉妬する者がいた。

その度に和樹は、どうして他人にそこまで執着できるのかと理解に苦しみ、別れを選んだ。が、今は彼女たちの気持ちがよくわかる。
 
——あの夜もそうだった。
 
パーティの夜、他人行儀に『契約』という言葉を繰り返す楓に、和樹は胸が張り裂けそうになり、我慢できずに無理やり腕に閉じ込めた。

彼女が言うことは正論だと、わかっていてもどうしても離したくなかったのだ。
 
——結果、彼女を傷つけた。
 
卑怯で汚らわしい、最低なやり方で。
 
ズキズキする胸の痛みは自業自得だ。自分のしたことを考えれば、こんなものは償いにもならない。
 
しばらくすると車がゆっくりと停車する。自宅のエントランスに着いたのだ。

「副社長、到着いたしました」
 
運転手の言葉に、目を開き奥歯を噛み締めて考えた。
 
あのカフェから自宅は歩ける距離だ。このあと楓がここへ帰ってきたら、パッキングの途中に顔を合わせてしまうだろう。
 
今のこの気持ちを抱えたまま、彼女と顔を合わせるのが怖かった。自分がなにをするかわからないからだ。
 
自分には彼女に対するなんの権利もないといくら言い聞かせても、彼女を欲しいという気持ちの暴走を止めることができない。こんな感情のまま、あの甘やかな香りを感じてしまったら……。

「悪い、急用ができた。申し訳ないが、空港近くのセントラルホテルまで送ってほしい」
 
和樹は運転手にそう告げる。
 
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