契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
自室へ戻るわけにもいかず楓はそのままリビングで彼女が下りてくるのを待つ。

胸に不安な思いがひろがった。

楓が別棟で生活していることがバレなくても彼の寝室へ行けば、家庭内別居は一目瞭然だ。
 
確かに三葉商船ほどの会社の取締役なら自宅に秘書を入れることもあるだろう。

今までそれがなかったのは、おそらく和樹が避けていたからだ。

楓と仮面夫婦であることを知られないように。

でもこのタイミングで黒柳に自宅へ来るよう指示をしたということは、もう彼女にふたりの関係を知られてもかまわないということだろうか?
 
結婚を決めた時も、仮面夫婦だと疑われていると言った時も、あんなに彼女に知られることを警戒していたというのに……。
 
いったいなぜ?
 
彼女と和樹の関係が、以前とは変わったということだろうか?
 
だとしたら、なにがきっかけで?
 
たくさんの疑問が渦巻く中で頭に浮かぶのは、ついさっきの一ノ瀬の話だった。
 
和樹は、三葉商船の後継者として、世間から認められつつある。
 
つまり彼は当初の目的を達成したというわけだ。

であるならば、女性との付き合いを再開してもかまわないという状況になったということだろうか。
 
あの夜、楓が泣いて彼との関係を拒否したから、大人の付き合いができる黒柳を選んだ……?
 
しばらくすると、黒柳が小ぶりのスーツを手に下りてくる。
今の楓の予想を裏付けるように、勝ち誇ったような表情だった。

すぐには玄関へ向かわずに立ち止まり楓を見て口を開いた。

「思ったよりも早く終わりが来たみたいね。もう家庭内別居状態だなんて。それともやっぱりはじめからなにも始まっていなかったのかしら?」
 
挑発するような言葉に、当然楓は答えられない。

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