契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】

和樹が香港へ出発して二日目の朝、楓は三葉家のキッチンでコーヒーマシーンに背を向けて。

インスタントコーヒーを淹れている。
　
前日は会社を休んでしまった。黒柳が帰った後のリビングで泣き疲れて寝てしまい、熱が出たからだ。

別棟で一日中寝て過ごすうちに楓は契約を終わらせることを考えていた。

どのみち彼から終わりを告げられるのもそう遠くはなさそうだ。

パーティの成功で、彼の目的は達成できたのだから。
　
ダイニングテーブルに座り、砂糖と牛乳をたっぷり入れたコーヒーをひと口飲む。

「インスタントでも美味しいもん」
　
呟いて大きな窓の向こうの朝の庭を見ると、じわりと景色が滲む。

慌てて楓は「もう泣くな」と自分自身に言い聞かせた。

散々泣いて答えは出た。

これ以上考えることも泣くことももうしない。もう迷わない。
　
けれどどうしても彼に会って自分の口で終わらせることは、できそうになかった。
　
だから明日彼が香港から帰ってくる前に家を出ようと思う。
　
もともと楓の持ち物は少ない。

服や靴、鞄などすべての物を合わせても大きめのスーツケースに収まるくらいなのだから。

ゆっくりとコーヒーを飲み切って、ふーっと長く息を吐いてから、楓はテーブルの上に置いたままになっている携帯を手に取った。