契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
その向こうで和樹に付き添う形で部屋の中にいた黒柳が微かに笑みを浮かべた。

馬鹿にしたようにも思えるその仕草を和樹は見逃さなかった。

『だが、今日はその辺りをじっくりと聞かせてもらうつもりだからな』
　
オリバーがニッと笑う。今夜彼と夕食を共にして、明日帰国の途につくことになっている。
　
その彼に向かって、和樹は申し訳ない思いで口を開いた。

『オリバー、申し訳ないんだが食事はまたの機会にしたい。急遽、帰国しなくてはならないんだ』
　
視界の端で、黒柳が眉を寄せた。

『そうか……本社でトラブル発生か？』

『いやそうではなくて……。プライベートのトラブルだ。その……つまり、妻の関係で……』
　
言葉を濁しながら言う。

今日の夕食の相手が彼でよかったと心から思う。

さすがにビジネスのみの相手ではキャンセルできないからだ。
　
一方でドタキャンされたという立場にるはずのオリバーは、和樹の言葉に笑顔になった。

『おおっ！　カズキ！　お前がパーティで新妻にデレデレだったという話は本当だったんだな！　いや～こんなお前を見られる日がくるとは。いいよいいよ、妻になにかあるときは、なにがあっても駆けつける。これが夫の使命だからな』

　
そう言ってバシバシと和樹の肩を叩く。

『すまない。……ありがとう』
　
和樹はやや気恥ずかしい思いで礼を言った。
　
和樹と違って、どちらかというと恋愛にのめり込むタイプのオリバーは今は超がつくほどの愛妻家だ。

この手の話はよく聞いていたが、まさか自分がそうすることになるとは思わなかった。

『いいか？　どんなトラブルかは知らないが、とにかく妻には絶対服従。彼女たちは女王さまだ心得よ。これが夫婦円満の秘訣だからな。ほら、早く行け』
　
さも重大なことのようにそう言ってオリバーは和樹の背中を押す。

そんな彼に苦笑してもう一度礼を言ってから和樹は部屋を出た。

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