契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
再び手を止めて、彼女を見る。やはりそれを確かめたくて自宅へ入ったのだ。

荷造りをしながら、和樹のプライベートエリアに楓の物が一切ないことを確認したのだろう。

「副社長、あの女で満足できていないんでしょう? 就航式典の夜も別の部屋へ移動されましたよね? 私、見たんだから。自宅の寝室も別だなんて夫婦とは言えないわ。だいたい……」

「だが、俺は楓を愛してる」
 
和樹は黒柳の言葉を遮った。
 
彼女が口を閉じて眉を寄せた。

「夫婦とは言えない……か。自宅を見たのなら君がそう考えても無理はない。だが、俺が彼女を愛していることには変わりない。一般的な形とは言えなくても、彼女にそばにいてほしい、そう願って口説き落としたんだ」
 
強い口調で言い切ると、黒柳が不快そうに頬を歪めた。和樹の様子から、今の言葉がごまかしでないと感じたのだろう。
 
苛立ったように吐き捨てた。

「なによ! おじさまが言ってた話と全然違うじゃない」

「おじさま? ……森下監査役が、なにか?」
 
尋ねると、彼女は不服そうに和樹を睨んだ。

「おじさまは、副社長の結婚相手に私はどうかって仰っていました。私だってそのつもりだったのに……。それなのに、副社長は就任から一カ月で一般社員と結婚されて……こんなに馬鹿にした話、あります?」
 
彼女が森下監査役の姪だというのは知っていたが、そういう思惑のある話だとは知らなかった。

でもこれで彼女が異常に和樹に執着していたわけがわかった。

彼女にとってなによりも大切なプライドを傷つけられたことに怒っていたのだ。

「そのような話は、私は聞いていない。聞いていたら、君が秘書になることには反対した」

「で、でも私は聞いていたんです。それなのに、少しミスしたからと言って、秘書室からも外すだなんて納得できません。こんなの、おじさまがお許しになるはずがないわ」
 
秘書では無くなったからか、はたまた縁談が完全にダメになり、猫をかぶる必要がなくなったからか、黒柳が強く反論する。
 
和樹は彼女を睨んだ。

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