契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
頷いて和樹が、膝の上の楓の手を取った。楓を真っ直ぐに見つめて口を開いた。

「楓、俺の妻になってくれ。結婚してほしい」
 
楓には、彼がなにを言っているのか、すぐには理解できなかった。

「……もう一度、契約をやり直すってことですか?」
 
首を傾げて少し間の抜けた質問をしてしまう。

契約を終了してまた契約をし直すなんて、まったく意味がないことを彼が望むわけがない。
 
和樹が首を横に振った。

「そうじゃない。契約ではなく本当の妻になってほしいんだ。俺は君を愛してる。ずっとそばにいてほしい」
 
息が止まりそうな心地がした。
 
信じられない聞き間違いだと思うけれど、目の前の彼の瞳には紛れもなく真実の色が浮かんでいる。
 
和樹が端正な顔を切なげに歪め重ねた手に力を込めた。

「俺は君に一般的な妻の役割は求めない。君が望むことはすべて叶える。ただここにいてくれるだけでいいから、俺に君を愛させてほしい。俺には君が必要だ」
 
彼が紡ぐありったけの愛の言葉に、楓の胸は痛いくらいに高鳴った。

両手に感じる力強い温もりに、これが現実のことなのだとじわりじわりと実感する。

今の今まで手放さなくてはならないと諦めていた胸の中の彼へ愛に、命が吹き込まれていく。目の前の未来が彩られるような心地がした。

『ただここにいてくれるだけでいい』
 
楓だって同じだった。
 
彼がそばにいられるなら、ほかにはなにも望まない。

「楓、出て行かないでくれ。俺は君と共に未来を歩みたい」
 
いつも自信に満ち溢れて、何事にも動じない完璧な彼が、今はただなりふりかまわず、楓に愛を求めている。
 
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