契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
ダークブラウンの木の扉の前で深呼吸をひとつする。

ドキンドキンと痛いくらいに心臓が鳴るのを感じながら、思い切ってノックすると、扉がゆっくりと開いた。

「どうぞ」
 
和樹に優しく促されて、楓ははじめて和樹の寝室に足を踏み入れた。

書斎とは内扉で繋がっているウォークインクローゼットもついた広い空間の中央にある彼のベッドを楓は直視できなかった。そのベッドに和樹は腰を下ろして腕を広げた。

「おいで、楓」
 
そろりそろりと彼の元へ歩みよると、腰に腕が回される。和樹がからかうような目で楓を見た。

「もう来ないんじゃないかと思ったよ」

「ご、ごめんなさい。ど、どうしたらいいかわからなくて……」
 
頬を染めて楓は答えた。
 
今彼が言った通り、互いに思いを確かめ合ったあと、お風呂に入るため一旦解放してもらってから、ここへ来るまでに随分時間がかかってしまった。まずはバスルームで入念に身体を洗った。

次に、なにを着たらいいかがわからなくて、クローゼットの前で行ったり来たり。

彼の部屋へと続く階段を上る勇気がなくてしばらくそこでウロウロして、寝室の前でまた……といった具合だった。

「まだ決心がつかないなら、このままここで一緒に寝るだけでもいいんだぞ」
 
緊張を隠すこともできない楓を、和樹が優しい目で見上げた。

「もちろん俺は君が欲しい。でもここにいてくれるだけでいいというのも本心だ。君に少しも無理をしてほしくない」

「私……。自信がないんです」
 
楓は眉を下げた。
 
これくらい皆していることだとわかっている。

二十七歳にもなって情けないと思うけれど、恋愛をまったくしてこなかった楓にとっては、なにをどうすればいいかわからなくて不安だった。
 
和樹が首を傾げた。

「自信がない?」

「か、和樹さんは、たくさんの女性と付き合ってきたんでしょう? 黒柳さんから聞きました。外国人モデルの方と付き合っていたこともあるって……。でも私はなにもかもがはじめてで……。その、多分うまくできないと思います」
 
楓の言葉に和樹は眉を寄せて渋い表情になった。

「黒柳は、もっと早く外しておくべきだったな」
 
苦々しそうに呟いて、ため息をつく。うつむく楓の頬を大きな手で包み込んだ。

「うまくやろうなんて思わなくていい。俺はそのままの楓が好きなんだから」

「でも……」

「それに、はじめてなのは君だけじゃないよ。……俺もだ」
 
その意外な言葉に、楓は驚いて顔をあげる。
 
和樹が少し照れたように微笑んだ。

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