契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
和樹が肩をすくめて「まあね」と言った。

「だが今だけは、そういったことに煩わされたくないんだよ。……ここから数年が俺にとって正念場だ。会社にとっても」

「正念場……」

「そうだ」
 
和樹が身体を起こした。

「今日の人事発表で俺は後継者として指名された。だがそれで万々歳というわけじゃない。将来に渡って会社を率いていく盤石な体制を作るには指名されただけではダメだからな。社員に信頼されて対外的にも実力を認められる必要がある」
 
楓は今朝の発表後、複雑そうにしていた社員たちを思い出していた。

どんなに巨大な企業でも代替わりに失敗して傾くことはある。


「女性からのアプローチとひっきりなしに持ち込まれる縁談をのらりくらりかわすことは普段の俺なら容易いことだ。実際そうするつもりではあったが、避ける方法があるならいくら払ってもいいから避けたいというのが今の本音だ。夫代行サービスという君の話は、渡りに船だった。俺が君との結婚を望む本当のメリットだ。君から見てどうかは知らないが俺にとっては大きいなメリットだ」
 
そう言って彼は両手を広げて楓に見せる。これが本音で、もうなにも隠していることはないという意味だろう。

紳士のふりをやめてその本音をさらけ出して生きていけば今よりも女性人気は落ちるだろう。

問題はすぐに解決しそうなのに、と思いながらも楓はそれで納得した。
 
つまりは今だけは優先すべきことに全力で打ち込みたい、そのためには手段は選ばないということだ。
 
ここまでの話を聞いて、楓はこの話、前向きに考えてみようかという気になっていた。

異性からのアプローチを避けたいがために結婚するなんて、楓の感覚からすればありえないが、なにに重きをおくかは人それぞれだ。

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