契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
幸せな夫婦ならあってもおかしくない話だが。

「食事を……? どうしてですか?」

疑問がそのまま口から出てしまう。

和樹がため息をついた。

「君に話があるんだよ」

「話……?」

「ああ、俺たちの関係についてのことだ。午後七時プライマリーホテル二十五階『雅』に予約を入れておく。ほかに行きたい店があれば、リクエストしてくれてもかまわないが……」

「そ、それは大丈夫です」

楓が慌てて答えると、彼は頷いて「名前を言えばわかるようにしておくよ」と告げそのまま玄関の方へ去っていく。
話とはなにかと尋ねることもできないままに、楓は彼の背中を見送った。

意外すぎる彼からの誘いに、胸に不安な思いが広がった。

『俺たちの関係について』と彼は言った。つまり夫婦の関係についてということだろう。

でもいったいなんだろう?

広い家で別々の寝室を使い、互いに干渉し合わずに生活する。

普通の夫婦だったら冷え切った関係だといえるだろう。

関係改善の努力をするべきかもしれない。でも和樹と楓にとってはこれが理想的な夫婦の形なのだ。
男女としての愛情を育むわけでもなく家族としての関係を築く必要もない。

ただ対外的に夫と妻としての最低限の役割を果たしてくれる相手が欲しかっただけなのだから。

——そう、三葉楓とその夫三葉和樹は、形だけの夫婦、いわゆる仮面夫婦なのだ。
< 4 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop