契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】

そう言って彼は、沈黙し少し考える素振りを見せる。
　
もの言いたげな様子に楓が首を傾げると、気を取り直したようにまた口を開いた。

「それにしては生活費の方は、まったく使っていないようだが」
　
婚姻中の生活費は、食費から日用品、遊興費にいたるまで自分が支払うと彼は言った。

嫌がらせや陰口を叩かれることに対する慰謝料的なものだという。
　
家族が使用できるクレジットカードを持たされてそれを使えと言われているが、この半年間財布に入っているだけでまだ一度も使っていない。

生活費がかからなければ、奨学金返済のペースも貯金のペースもさらにあげられて、助かるのは事実だが、そこまでしたくないと思ったのだ。
　
べつに彼に遠慮しているわけではない。あくまでも自分のためだった。

いい環境を一度手に入れてしまうと人はその分贅沢になる。

数年後にはもとの生活に戻るのだから、その時に自分自身に負担がかからないようにしておきたかったのだ。

「家賃と光熱費がかからないだけで、十分ですので」
　
答えると、彼はさほど頓着せずに頷いてコーヒーカップを静かに置いた。そしてまた考えている。

「副社長？」
　
不思議に思って尋ねると、彼はポツリと呟いた。

「なるほどやっぱりこれが原因か」

「え？」

「君は結婚半年が経った今、私たちが社内でどう言われているか知ってるか？」
　
突然の問いかけに、楓は瞬きを繰り返す。少し考えてから首を横に振った。
「いえ……」

「仮面夫婦だ」

「え？」

「仮面夫婦と噂されている」
　
眉間に皺を寄せて、不機嫌に言う彼を見つめて楓は呟いた。

「仮面夫婦……」

「そうだ。バレている」

「そんな……。どうして？」
　
わけがわからなかった。楓はこの契約について誰にも話をしていない。