契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
そのまさかだった。
 
確かに二十七歳女子にしては、珍しい方だろう。
 
でもそもそもアクセサリー自体が生活にどうしても必要というものではない。

まったく興味がないとは言わないが、節約生活の中でもっとも手が出ないものだ。

「なんてことだ……」
 
和樹が呟いて首を振る。楓が使っているのとは反対側のベッドに座り込み、ふーっと長い息を吐いて頭を抱えている。

「思っていたよりもひどい。……俺が扱った中で一番難しい案件になりそうだ」

「わ、私にはこれで十分なんです! 会社では人に不快感を与えない程度の身だしなみを整えていますし、プライベートは自由ですから」

「だが、俺の妻らしくはない」
 
顔を上げて、和樹が言い放つ。
楓はぐっと言葉に詰まった。

「いいか? 君がプライベートでどんな服装をしようと自由だ。だが、これではあまりにもちぐはぐだとは思わないか? 三葉商船の役員の妻が、アクセサリーひとつ持っていないとは」

「そ、それは……。だけど私には、いらないものに使うお金はありません」
 
言い切ると彼は、楓の机をチラリと見る。資格試験のテキストを見てため息をついた。

「仕方がない……。君は明日休みだな?」
「え? ……そうですが」
 
答えると彼はスーツの胸ポケットから携帯を取り出して発信する。
相手はすぐに出たようだ。

「一ノ瀬(いちのせ)悪い。今いいか? 明日の俺の予定だが……」
 
第一秘書のようだ。彼はそのまま明日の予定を調整する。

「……それから、高崎百貨店に連絡を入れてくれ。そう、いつものやつだ」
 
どうやら楓の衣服を買い求めるつもりのようだ。彼が通話を切ったのを確認して、楓は慌てて口を開いた。

「も、持ち物を変えたからといって、すぐにそれらしくなんてなれないと思います」
 
楓にとって着飾ることは最も優先順位の低いことなのだ。そんな暇があるならと勉強ばかりしてきたのだから。

そんな自分が少しばかりいい格好をしたところで、どうなるものでもないと思う。

「そもそも、素質がなければ、いくら努力しても意味がないのでは……」
 
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