契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
それが期間として長いのか短いのか見当もつかなかった。

そもそもなにをどうすれば、彼の妻らしくなれるのか、楓にはまったくわからない。はっきり言って自信はなかった。
 
目の前の男は、堂々としていて完璧で、このまま式典に出席してもおかしくはない。一方でその隣に自分が並ぶという光景はまったく想像もできなかった。

そもそもこうしてふたりで話をしていること自体、はたから見ると不自然に思えるだろう。
 
和樹が腕を組んで宣言する。

「安心しろ、君がそうなれるよう俺が直々に指導してやる」

「え!」
 
穏やかじゃない言葉に、楓は肩をぎくりとさせた。
 
確かに、旧財閥家の長男として上流階級の振る舞いが身に染み付いている彼ならば、指導者として適任だ。
 
だけど、ものすごく嫌な予感がする。

「指導……ですか……?」
 
完全に怖気付いてそう言うと、和樹が楓を
見下ろして、不敵な笑みを浮かべた。

「ああ、そうだ。俺の貴重な時間を割いてやるんだ容赦しないからな、覚悟しろ」
 
そしてくるりと踵を返してさっさと部屋を出ていった。
 
バタンと閉まるドアを見つめて、楓は愕然とする。
 
大変なことになってしまった。
 
クイーンクローバー号の就航式典は三葉商船を全世界へアピールする場として、世界中のメディアを招くことになっている。
 
全社一丸となって進めている絶対に失敗できない一大プロジェクトだ。
 
まさかその大切な式典に彼の妻として出席することになるなんて。
 
いや普通に考えたらあり得る話なのだろう。

楓とて頭をよぎらなかったわけではない。

ただなんとなく彼ひとりで出席すると決めつけていただけなのだ。

この半年間も妻同伴の席に誘われることがなかったはずはないけれど、一度も出席を求められなかったから。
 
ため息をついて、楓は部屋を見回した。
 今さらだが、軽々しく契約結婚したことを後悔しはじめていた。この生活は快適だが、その代償は大きかった。
 
クイーンクローバー号就航式典で彼の妻を演じられるという自信は今の楓にはまったくない。

そんなことをするくらいなら離婚する方がましだと思うくらいだった。
 
両親との関係は最悪になるけれど……。
 
……契約終了か。
式典か……。
 
ベッドにすとんと腰をおろして楓はぐるぐる考え続けた。

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