契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
三葉家の二階の角部屋が和樹の書斎だ。

電気を点けず薄暗い中で、和樹はスーツ姿のままデスクに座り考えを巡らせている。
 
和樹は、三葉家の長男として使命を負って生まれてきた。

三葉商船を末永く繁栄させ、世界の物流を支え続けるという絶対に失敗できない使命だ。

生まれた瞬間から死ぬ間際までやるべきことがびっしりと詰まっている。そんな人生を生きている。

常に完璧な紳士としての仮面を被り周囲の期待に応え続ける。それこそが自分の存在意義であり、本当の自分の思いは必要ない。

それをつらいと思ったことはないが、やりにくいと感じることはある。とくに女性との付き合いはそうだった。
 
和樹に近寄る女性たちには、いつもそれぞれ目的がある。
 
見た目の良いハイスペックなパートナーを周囲に自慢したい者。
 
ビジネス上のコネクションを欲しがる者。
 
贅沢をしたい者……。
 
もちろん、ただの恋人ならばそれでいい。

和樹とて、単純に彼女たちとの付き合いを楽しんだ時期もある。

だが、結婚となれば話は別だった。

生涯を共にするのなら、そのような者たちでは不都合だ。そもそもそういう相手とひとつ屋根の下にいるという状況に、和樹自身、耐えられそうにない。
 
楓との契約結婚は、そんな自分にとっては非常に都合のいい話だった。
 
須之内楓の社内での評判は、優秀かつ冷静沈着、真面目で融通が効かないというもので、契約相手としては信用に値する。

加えて、男性不信で和樹に恋愛感情を抱く心配がないという点を考えると、これ以上ないくらい相応しい人物のように思えた。
 
実際その読みには間違いはなかったのだ、和樹が与えたカードからは生活費を出すことなく、将来に備えて資格試験の勉強をしていた彼女を見て和樹はそう確信した。

彼女は、今まで自分がかかわった中で、一番信用できる女性だ。
 
デスクに肘をついた手でこめかみを押さえて、和樹は眉間にシワを寄せた。
 
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