契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
胸騒ぎの買物デート
契約終了か、あるいは式典への出席か。
 
結局、ひと晩考えても楓の中で答えは出なかった。眠れぬ夜を過ごして迎えた土曜日の朝。

勝手に部屋に入ってきた和樹によって、楓は叩き起こされた。

文句を言う暇もなく、追い立てられるように着替えさせられる。

そして連れてこられたのは、自宅からほど近い五つ星ホテルの中にある美容室だった。まずはそこでヘアカットとメイクをするという。

「希望があるなら、一応は聞いてやる」
 
鏡の前に座る楓を見下ろして彼は言う。そんなものあるはずがなかった。

「……と、とくにはありません」
 
楓にとっては、今がベストな状態だ。髪は結べる長さだし、メイクも最低限でいい。
 
和樹が渋い顔をした。

「やる気を出せ。……君は本当にポンコツだな」
 
そう言われても、本当のところまだ契約を継続するかどうかすら決めかねている状態なのだ。

やる気になどなれるはずがない。

なぜか彼が『なんとかなる』と思ったのかは不明だが、髪を変えてメイクをしても式典に出席できるほどの見た目になれる自信はない。

「あの……私、やっぱり……」
 
無理そうだと言いかける楓を遮って、和樹が自ら美容師に向かってオーダーし始める。

「明るい雰囲気にしてほしい。髪の長さはあまり変えないで、軽い感じに整えてくれ」

「軽く明るい雰囲気ですね」
 
美容師が頷いて、楓の髪に触れる。

「では髪に少し色を入れるのはどうですか? 髪の色をほんの少し変えるだけでも随分印象が変わりますよ」

「色か、そうだな……」
 
つられるように和樹も楓の髪に触れる。
 
楓の胸がドキンと鳴った。
 
鏡の中の楓を見る真剣な視線に、不覚にもドギマギしてしまっているのをごまかすように目を伏せる。

自分の髪に触れる彼の手を直視することができない。
 
しばらくして彼は首を横に振った。

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