契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
絶対に実家には帰りたくなかったから、一生懸命勉強してたくさんの資格を取り、一流企業である三葉商船の内定を勝ち取ったのだ。
 
血の滲むような努力をして、手に入れた今の生活を『失敗』などと言われて楓の頭に血が上った。

馬鹿馬鹿しい価値観だ、こんな田舎になんか死んでも帰るつもりはないと父親に向かって言い切った。

あとは当然、売り言葉に買い言葉で、激しい親子喧嘩になる。

母が間に入りどうにかその日は収まったが、次の日、起きてすぐに家族の誰とも口を聞かずに東京へ戻ってきた。
 
緩やかにジャズが流れるカウンターで苛立ちを持てあましたまま、楓は何杯目かのカシスオレンジを飲み干した。

アルコールは、会社の飲み会でもない限り普段は口にしないけれど、今日は酔いたい気分だった。
 
次はもう少し強いカクテルにしようかと楓がメニューを手に取り睨めっこしていると。

「このBARは、はじめて?」
 
突然声をかけられて顔を上げると、隣の席にスーツ姿の若い男性が座っている。楓は少し驚いて、メニューを置いた。
 
恐ろしくカッコいい人だった。
 
座っているから背の高さはわからないが長い脚をカウンターの下でやや窮屈そうに組んでいる。

上品に整えられた黒い髪は、緩くウェーブがかっていて、口もとに優雅な笑みを浮かべていた。

戸惑う楓に、彼はメニューに視線を送って口を開いた。

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