契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
「嘘だよ! 今日一日頑張ったご褒美だ。好きなように食べてくれ」
 
その笑顔に、楓の鼓動はまたスピードを上げていく。
 
紳士的な表の顔、ビジネスの場のやり手の顔、失礼極まりない本当の顔、いろいろな彼を見たけれど、どこか無邪気にも思えるこんな笑顔ははじめてだ。
 
頬が熱くなるのを感じながら、楓は彼に言い返す。

「もう、からかわないでください」

「君があまりにも物欲しそうにケーキを見ているからだ。からかってくださいと顔に書いてある」
 
無茶苦茶な彼の言い分に、楓は頬を膨らませた。

「な、なんですかそれ! 私、物欲しそうになんて見ていませんし、からかってくれなんて思っていません」

「そう?」
 
完全に面白がっている彼を、楓はじろりと睨むけれど……本心から腹が立たしいとは思えなかった。

「和樹さんがモテるって話、嘘じゃないかな。美味しそうなケーキを並べておいて、こんな風に女性をからかうなんて……。女性とはたくさん付き合ったっていう話だけど、案外、フラれてばかりだったりして」
 
口を尖らせてぶつぶつ言うと、和樹が肩をすくめた。

「女性をからかったことなんか今までないよ。君が言うように、女性はプライドが高いからね。少しでも気に入らないことがあればすぐに怒って帰ってしまう。めんどくさいからわざわざ怒らせるようなことはしない。常に紳士的に丁寧に接していた」
 
澄ました顔でコーヒーを飲んでそう言った。

その言葉に、楓はなぜか嬉しくなる。つまりはこんな彼を見た女性は自分だけということだ。

こんな風に無邪気に笑う……と、そこではたと気がついてその考えにストップをかける。
 
女性はからかわないようにしていると言う彼が、楓のことをからかった。つまり彼は楓を女性として見ていないということだ。

楓だって女性なのに、本人に向かってこんなことを言うなんて失礼な言葉だ。喜んでいる場合じゃない。
 
……いったい自分はどうしてしまったのだろう?
 
もやもやしながら、楓はショーケースの中のように並べられたケーキを自分の皿に取り分ける。

まずはガトーショコラ、ひと口食べてすぐに楓のもやもやは吹き飛んだ。

さすがは五つ星ホテルのスイーツだ。

上品な甘さとなめらかな舌触りに感動すら覚えるくらいだった。口もとに自然と笑みが浮ぶ。

アフタヌーンティーには、サンドイッチやスコーンなどを食べる順番が決まっていたように思うが、気にせず楓はスイーツ類を食べ続ける。小さなサイズのケーキは、いくらでも食べられた。
 
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