契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】

視線を感じて和樹を見ると、彼はコーヒーカップを手に、楓を見て口もとに笑みを浮かべていた。

「……なんですか？」

問いかけると、彼はカップを置いた。

「いやべつに。うまそうに食べるなぁと思って」

そして少し懐かしそうに目を細めた。

「ロサンゼルス支社のアメリカ人支社長のホームパーティに参加したことがあるんだ。そこで会った彼の娘さんを思い出していたんだよ。彼女もデザートのケーキを目を輝かせて食べていた」

「スイーツがお好きな方だったんですね」

「まあね」
　
頷いてから、彼はなにかを思い出すような表情になり、次の瞬間噴き出した。

「八歳の女の子だったけど！」
　
心底おかしそうに、はははと声をあげて笑っている。

「なっ……！」
　
言葉に詰まり、楓は頬を膨らませた。
　
またこの人は！
　
ケーキを食べてる姿を見て八歳の女の子を思い出すなんて、楓のことは、女性として見ていないどころか大人としても見ていないということだ。本当に失礼極まりない。

「それにしても、君がこんなに、甘い物が好きだとは意外だな。可愛いところがあるじゃないか！」
　
可愛いという言葉にドキッとしながらも、楓はぷりぷりとして口を開いた。

「家は父がうるさくて、小さい頃はケーキとか甘いものはあまり食べさせてもらえなかったんです。そもそも田舎だから美味しい洋菓子店も近くにはなかったし」
　
上京してからはそのあたりの問題は解決したが、金銭的な都合からあまり値の張るものは食べられない。

せいぜいがコンビニスイーツくらいだった。それだって十分美味しいけれど。

「なるほどね。じゃあいい機会だから、好きなだけ食べていいよ、お嬢さん」
　
まるで小さな子供相手に言うような彼を、楓は睨み、精一杯の嫌味を口にする。

「さっき和樹さんは女性には紳士的に接していたとおっしゃいましたけど、それを止めて今みたいに振る舞えばいいと思います。そうすれば仮面夫婦なんてふりをしなくてもあっという間に、周りは静かになりますよ」
　
少し仕返したくなったのである。