契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
「表の顔と裏の顔を随分上手に使い分けられているみたいですが」
「俺は三葉家の長男だぞ。いずれは巨大なグローバル企業のトップに立つ人間だ。無駄に敵を作るのは得策ではない。それに体裁を取り繕っているのは君もだろう? ちゃんと話しをするのは昨日からだが、会社での評判と随分違うじゃないか。有能で隙がなくいつも冷静だという話だが、服装やメイクに関してはまるでポンコツだ。アクセサリーを選ぶのもおたおたして……!」
そう言ってまた笑っている。
渾身の嫌味をあっさりと切り返されて楓は言葉に詰まり口を閉じた。
タチの悪い男だ。
自社の社員であり、契約結婚をしているというビジネスパートナーでもある楓をこんな風にからかうなんて。
でも本当にやっかいなのは、その彼の振る舞いをまったく腹立たしく思えない自分自身だった。怒らなくてはならないのに、なぜか心はふわふわする。
本当に、今日の自分はどうしてしまったのだろう?
とにかくこんな危険な人物には、極力かかわらないに限る。
もうなにも言うまいと心に決めて、楓はまたケーキを食べた。
彼の方は、仕事用のタブレットを手にすることなく、どこかリラックスした様子で窓の外眺めながらコーヒーを飲んでいる。
臨海地域にあるこのホテルからは夏の日差しに照らされた海を見ることができた。
キラキラと輝く水面を大きな船が、大海原にむけて出港して行く。
「どこの船だろう」
和樹が呟いた。
「……あれは、外国船だな」
楓に言ったというよりは、頭に浮かんだことがそのまま口から出ただけのようだ。
遠くに浮かぶ黒い船を見つめるその瞳はどこか愛おしげですらあった。
「……船がお好きなんですか?」
フォークを置いて楓は彼に問いかけた。少し、間の抜けた質問だ。
世界的な海運会社の次期リーダーである彼にとっては、船はビジネス上の重要なツールだ。好きかどうかなどという対象ではないだろう。
でもその質問に、意外にも彼は素直に頷いた。
「ああ、好きだ。……本当は船乗りになりたかったんだ」
「俺は三葉家の長男だぞ。いずれは巨大なグローバル企業のトップに立つ人間だ。無駄に敵を作るのは得策ではない。それに体裁を取り繕っているのは君もだろう? ちゃんと話しをするのは昨日からだが、会社での評判と随分違うじゃないか。有能で隙がなくいつも冷静だという話だが、服装やメイクに関してはまるでポンコツだ。アクセサリーを選ぶのもおたおたして……!」
そう言ってまた笑っている。
渾身の嫌味をあっさりと切り返されて楓は言葉に詰まり口を閉じた。
タチの悪い男だ。
自社の社員であり、契約結婚をしているというビジネスパートナーでもある楓をこんな風にからかうなんて。
でも本当にやっかいなのは、その彼の振る舞いをまったく腹立たしく思えない自分自身だった。怒らなくてはならないのに、なぜか心はふわふわする。
本当に、今日の自分はどうしてしまったのだろう?
とにかくこんな危険な人物には、極力かかわらないに限る。
もうなにも言うまいと心に決めて、楓はまたケーキを食べた。
彼の方は、仕事用のタブレットを手にすることなく、どこかリラックスした様子で窓の外眺めながらコーヒーを飲んでいる。
臨海地域にあるこのホテルからは夏の日差しに照らされた海を見ることができた。
キラキラと輝く水面を大きな船が、大海原にむけて出港して行く。
「どこの船だろう」
和樹が呟いた。
「……あれは、外国船だな」
楓に言ったというよりは、頭に浮かんだことがそのまま口から出ただけのようだ。
遠くに浮かぶ黒い船を見つめるその瞳はどこか愛おしげですらあった。
「……船がお好きなんですか?」
フォークを置いて楓は彼に問いかけた。少し、間の抜けた質問だ。
世界的な海運会社の次期リーダーである彼にとっては、船はビジネス上の重要なツールだ。好きかどうかなどという対象ではないだろう。
でもその質問に、意外にも彼は素直に頷いた。
「ああ、好きだ。……本当は船乗りになりたかったんだ」