わたしは殺され、あなたを殺す
その日、セレニカは父親をともない家を、街を、国を出た。
抱えきれる荷物だけを持って、婚礼の最中で騒がしい人波に紛れながらも逆らって進む。
今日に至るまでに父親と二人、近所の人々を身勝手にも巻き込んで繰り返した実験。これまで親しくしていた人々に対して罪悪感もありはしたが、悪意ある言葉を与えてはいないことを自身への言い訳にした。
なんせ突然あらわれた能力だ。扱いがわからないのに、それを扱って事を為そうというのだから無謀な話ではあった。
何をきっかけに発動し、どういった作用を及ぼし、正気でないのはどれほどの時間になるのか、その効力の範囲は、残る記憶は。
時間に限りがある中で朝から晩まで繰り返し、時に無理がたたり倒れながらも、どうにか統計は出た。だからといって同様の力を保有する人物を相手取ってどうなるのかは賭けだった。
決行は結婚式当日と決めていた。
王太子とかろうじて貴族の娘では、アカデミーという接点がなくなれば会おうと思って会えるものではない。
招待状などと向こうが差し出してきた特殊アイテムのある今回を逃せば、この先で生きる世界が重なることはなく、彼に近づくことは果てしなく難しくなる。セレニカ自身の状況もあって、次の機会はないはずだった。