わたしは殺され、あなたを殺す
――どうかお元気で。
最後に告げたそれに嘘はない。死んでくれればいいと思う、それも本心だ。だけどそんなものは生ぬるい、生きて苦しんでほしいと願う。恨みを憎しみを忘れられる日がいつか来るならその時まで、きっとどこへ行ってもどこからでもそう願い続ける。
そうしてあなたを殺したい。
彼のこの先が、セレニカの望んだ未来へ進むかどうか確証はなかった。それでもどうしてか自分にとってそう悪くない道を転がり落ちていってくれそうな予感がしていた。
結末を見届けられないことは少しばかり残念にも思えたが、何より自分たちの身の安全が最優先なのだから仕方ない。子を産まされることも側妃にされることもなくとも、あの様子ではまた玩具にでもされてしまうに決まっている。
セレニカが願ったのは、彼の破滅だ。
危ない橋を渡ってまで復讐しようとすることは、最初こそ父親には反対されたが、最後には説得に応じてともに計画を立てる共犯者となった。本心では同じ気持ちを抱えていたからだ。
だけど、国を捨てることはセレニカの選択であり責任だった。
誰に踏みつけられようとそれなりの人生を送ってこられた、そんな国を父親にも捨てさせる。これから待ち受けるのは苦難の連続かもしれない。次第に変わりゆく体調、巻き込んでしまった父親には大変な苦労をかけるに違いない。
それでも母親を殺し、自分を弄び、それを何でもないこととする異常な国に骨を埋めることは出来ない。
元気で、どうか地獄を見て生きてください。
これがこの国の崩壊への一端となりますように。
そっと腹に手を当て、父親と頷き合う。
行き先にあてはない。他国との交流を絶っていた国では、外のことなど知れるはずもない。微かに聞いた豊かだとの噂だけを頼りに、南へ南へと逃れるつもりだ。
歓声が遠く背中に聞こえる気がした。
セレニカが残したものは呪いとなるか。
この佳き日に、新たな人生を歩み出す――。