エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
旅立ちの決意
好きな人と同じ家に住んで、一緒にご飯を食べて、ニコニコ笑い合う。
結婚についてそんな単純なイメージしか持ち合わせていなかった幼稚園児の頃の自分は、当たり前だけれど、なにもわかっていなかった。
恋愛感情だけで突っ走れるほど、結婚は簡単なものじゃない。
好きになることさえ躊躇してしまうほど身分の違う相手なら、なおさらだ。
だからこそ私は――。
「瑛貴、さん……っ」
規則的なリズムでベッドが軋む音を聞きながら、広い背中にしがみつき、無我夢中で爪を立てる。
初恋の相手に抱かれているこの幸せな夜を、忘れたくない。彼の恋人に、ましてや妻になるなんて過ぎた願いだとわかっているから、せめてひと晩だけでも愛されている錯覚に浸っていたいのだ。
「亜椰」
激しい律動を繰り返す最中、彼が薄い唇の隙間から吐息交じりに私の名前を紡ぐ。ムードを盛り上げるための演出でしかないとわかっていても、呆気なく彼の策に溺れてしまう。
だって、まるで本当に好きな人の名前を呼ぶみたいに愛おしそうな目をするんだもの。
「ダメ、見ない、で……」
私を見下ろす熱い眼差しに耐えられず、両手で顔を覆う。
彼が強引にその手を剥がし、シーツに縫い付けた。