エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
そんな感じで色恋とはさっぱり縁がない人生だけれど、今までで一度だけ、いいなって思った男の子ならいる。
幼稚園児の頃の記憶なのに、彼との思い出だけはわりとしっかり覚えているんだよね。
テーブルに顔をつけたまま、目を閉じる。
そうして思い浮かべるのは、二十年以上前の、小さな自分の姿だった。
* * *
幼稚園が終わり、バスで帰ってきたのは叔父たちの家でなく、家具店の方。
下町の商店街だったので、バスを降りて叔母と歩いているだけで、すれ違うご近所さんたちが「亜椰ちゃん、おかえり」と言ってくれる。
そうして店に帰り、叔母が出してくれたおやつを食べ終わると、店の一角に置かれた売り物の木製キッチンでままごとをするのが日課だった。
彩色はされておらず、木の温もりそのままのシンプルなデザインで、子どもが怪我をしないよう角の部分はすべて丸く滑らかに処理してある。
シンクの下についている引き出しにトナカイの形が掘られているのが特徴だが、何年もさっぱり売れない品。
叔父さんも売ることはほとんどあきらめていたので、私に遊ばせてくれていたようだ。