エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける

 一度深呼吸をして門から中に一歩踏み出したその時、庭に面した縁側の方から、麻人さんと胡桃の声が聞こえてきた。

「あさにぃのしゃぼんらま、でっかー!」
「だろ? 胡桃もやってみ。優しくふーすんの」
「ふー」
「ははっ。声は出さなくていいんだって」

 楽しそうなふたりの声にズキッと胸が痛み、なんとなく、彼らから死角になっている木の陰に身をひそめてしまった。

 胡桃は本当に麻人さんによくなついている。もしかして、〝麻人さんがパパならいいのに〟とか、思っていたりするだろうか。

 本人の口からそういう発言が飛び出したわけではないけれど、瑛貴さんより親近感を持っているのは確かだよね……。

「なぁ胡桃」
「んー?」
「俺が、胡桃のパパになっちゃダメ?」

 さっきまでのふざけた調子を消した麻人さんが、真面目なトーンで胡桃に問いかけた。

 どうして胡桃にそんな質問を……? 私がいつまでもハッキリしないから?

 それにしても、胡桃が混乱するようなことは言わないでほしいのに……。

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