エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける

「この間の返事、していいですか?」
「あー……あんまりよくはない」
「えっ?」
「冗談。亜椰ちゃんがなに言うかなんとなくわかってるから、びびっただけ」

 麻人さんは縁側に両手を突き、空を見上げる。胡桃の飛ばしたシャボン玉が、ふわふわと高く昇っていく。

「ごめんなさい。麻人さんとはお付き合いできません」
「……うん。だよなー。そんな気ぃしてた。今日、駅まで亜椰ちゃん送った後、実は一回Uターンしてふたりのこと見てたんだわ」

 見ていた? 私と瑛貴さんを?

 予想外の言葉に空を見ていた視線を麻人さんに戻す。その横顔は寂しそうに苦笑していた。

「そしたら亜椰ちゃん、見たことない顔してた。俺の前では絶対に〝胡桃の母親〟だったけど、アイツの隣にいる亜椰ちゃんは、なんつーか……いつもと違った。それで惨敗を悟って、胡桃を味方につけてみようかとも思ったけど、そんな卑怯もまかり通らなかったわ。もう白旗上げるしかない」

 麻人さんはひと息に語ってはぁっとため息をつく。けれど気持ちを吐き出したせいなのか、さっきよりは少し気が晴れたような顔をしていた。

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