エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
魔女の呪いは解けて――side瑛貴

『つぎは~ とおきょ~、とおきょ~』

 走り回る娘が、舌足らずに車掌の真似をしているその動画を、俺は今日までに何十回……いや、何百回見ただろう。

 暇さえあればスマホを取り出して再生している。

「またその動画ですか。いい加減、飽きませんか?」

 秘書の真鍋が運転する社用車での移動中、バックミラー越しにちらりと俺を見た真鍋が、冷ややかに言った。

 どうして俺が胡桃ちゃんの動画を見ていると気づいたのだろう。

「そんなに大音量にはしていないはずだが……」
「口元が緩んでますよ。先月末の中間決算が大幅な黒字報告だった時さえにこりとも笑わなかった社長がそんな顔をするのは、その動画を見ている時くらいです」
「そうか……自分では気づかないものだな」

 少々恥ずかしくなり、車窓の外に視線を投げる。しかしすぐにまた娘の姿を見たくなり、極力ポーカーフェイスを保って再び動画を視聴した。

 家族というものにあまりいい印象を持っていなかった俺が、こんな風に我が子を愛おしむ日が来るなんて、まるで奇跡だと思う。

 すべて亜椰のお陰だ。幼い頃に抱いた直感は、間違っていなかった。

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