エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける

「新幹線の時間、平気か?」
「はい。まだ少し余裕があります」
「胡桃。今度は三人のおうちで会おうな」
「うん!」

 行きと同じ駐車場に車を停め、三人で車を降りる。別れを少しでも先延ばしにしたいため、胡桃を挟んで三人で手を繋ぎ、駅舎までのんびり足を進める。

 その途中、不意にすれ違った女性の顔に懐かしさを覚えて、俺はぴたりと足を止める。

 すらりとした手足、艶やかな長い黒髪、いつでも派手な色のリップが塗られた唇……あの人は、まさか。

 次の瞬間、視線に気づいたらしい女性と目が合い、ドクンと鼓動が揺れた。

「母さん……?」

 俺の微かな呟きが聞こえたはずはないが、母と思しき女性はパッと目を逸らし、慌てたように駅とは反対側へ走りだす。

「瑛貴さん、どうしたんですか?」

 亜椰がそう尋ねる声にすら応えられず、俺は女性から目が離せない。

 彼女が一目散に向かった交差点の信号は赤。まさか、渡るはずがないよな……?

 そう思いつつも妙な胸騒ぎがした俺は、「亜椰、胡桃を頼む」と告げ、交差点の方へと踵を返す。その直後だった。

 大きなクラクションの音がすると同時に、辺りにドンツ!と衝撃音が鳴り響いた。通行人の悲鳴やどよめきが聞こえ、全身から血の気が引いていく。

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