エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける

「でも専業主婦って、大した達成感を得られない上、頑張ってもだーれも褒めてくれない。ランチに行こうと思っても、子連れじゃ動きやすい服ばっかりになってお洒落もできないし、本当に行きたい店はそもそも子連れお断り。もう、そんなんばっかりで、いい加減嫌になってね。私がこんな思いをするのは全部瑛貴を産んだせいだって……そんな被害者思考に支配されるようになった」

 母にも後悔があるのだろう。言葉の合間に、洟を啜る音が混じる。

「でも、夫と離婚してから、自分がいかに幼稚だったか、瑛貴にどれほどひどい仕打ちをしてきたか、理解できるようになった。だから、あなたと目が合った時に逃げてしまったの。残酷な母親だった自分の姿を思い出したくなくて……」

 母は両手で顔を覆い、「ごめん。本当にごめんなさい」と繰り返し懺悔する。

『いいよ』とか『許す』だなんて言葉はさすがに言えないが、ここまで苦しんでいる母に追い打ちをかけたいわけでもない。

 俺は静かに「そうか」とだけ言うと、ベッドから離れて病室のドアに手をかける。

 黙って出て行くこともできたが、その前にもう一度、母を振り返った。

「俺はもう、前向きに生きてる。母さんも、自分の幸せだけを考えて生きればいい」
「瑛貴……ありがとう……」

 子どもの頃から渇望していた母からの『ありがとう』を背中で静かに受け止め、俺は病室を出た。

 こんな風に母と向き合えたのは、紛れもなく亜椰と出会ったお陰。しかし、今も昔も彼女の愛の深さに助けられているばかりでは不甲斐ない。

 これからは俺が、亜椰と胡桃にありったけの愛情を注いでいくのだ。

 改めて胸にそう刻み、俺は病院を後にした。

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