エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
瑛貴さんが胡桃を寝かしつけている間に食器類を片付けていると、瑛貴さんが部屋に戻ってきた。
「胡桃、寝ました?」
「ああ、ぐっすりだ」
「よかった」
安心して最後の皿を拭いていたところで、瑛貴さんがふわりと背後から私を抱きしめる。
ドキンと胸が鳴って、はにかみながら彼を振り返った。
「瑛貴さん?」
「亜椰、フィンランド旅行、強引に誘ってごめん」
「えっ? ……いえ。私も行きたかったですし、胡桃も喜んでたじゃないですか」
瑛貴さんは黙って苦笑し、私から離れた。そしてゆっくり歩いて行った先は、胡桃のままごとスペース。彼はそこに胡坐をかくと、キッチンに彫られたトナカイのマークに指先で触れた。
「サンタクロース村。本当は、子どもの頃に俺が行きたかった場所なんだ」
「瑛貴さんが……?」
「ああ。父と母が出会った場所らしい。だから俺、そこにいる本物のサンタなら、家族を元通りにしてくれるとでも思ったんだろうな」
憂いを帯びた瑛貴さんの目は、どこか遠くを見ている。
冷え切った家庭で孤独だった過去の自分を思い出しているのかもしれない。