エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
「でも、キスはおままごとでしちゃダメ、だと思う」
自信なさげに首を傾げつつもそう言った彼に、私は目をぱちぱちさせる。
「そうなの?」
「うん。家族以外は……大人になってからの方がいいと思う」
……そうだったのか。初耳だけれど、私より年上で、しかもしっかりしていそうな彼が言うなら本当なのだろう。
納得した私はおやすみのキスをあきらめ、おままごとを継続しようとする。しかしその時、彼の父親が店の入り口辺りからこちらに声をかけた。
「瑛貴、帰るぞ」
「うん。ちょっと待って」
お兄ちゃん、えーきくんって言うんだ。
せっかく名前がわかったのに、これでお別れになっちゃうなんてつまんない……。
もっともっと彼と遊びたかった私は、マットの外で靴を履く彼のズボンのすそをキュッと摘んで、気が付いたらこう口にしていた。
「大人になったら、本当に結婚しよ?」
遊びのおままごとには、終わりがある。だけど、本当に結婚すれば、ずっと幸せな家族でいられる。
当時の私がそう思ったかどうか定かではないが、たぶん似た気持ちだったと思う。
男の子は私の顔と、小さなキッチン、そして床で眠る赤ちゃんの人形を順に見た後で優しく微笑んだ。