エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
「きみとならいいかも」
そう言ってゴソゴソとズボンのポケットを探った彼は、「これあげる」と私の手に飴玉をひとつ握らせた。
「ありがとう。約束だよ」
「うん。じゃあまたね」
彼はくるりと私に背を向け、父親とともに店を去って行った。車が走り去るのを見送ると、なにげなく手の中に視線を落とす。
彼がくれた飴玉の包み紙は、白地に黄色の水玉模様。ねじってある両端を引いて開けると、ふわりとチョコレートの香りがした。我慢できずに口に入れ、舌の上で転がす。
甘いけれどそれだけじゃなくて、少し舌がぴりっとする。
……これ、なんの味だろう?
答えを探しているうちに飴は小さくなり、甘い余韻を残して消えてしまった。
* * *
私はそれから来る日も来る日も〝えーきくん〟の来店を待っていたが、二度と彼に会うことはなかった。たまたま店を訪れただけのお客さんなのだから当たり前だ。
そのうち私もままごとをする年齢ではなくなり、あのキッチンもお客さんの手に渡ってしまう。
彼との記憶も数ある思い出のうちのひとつとして胸にしまわれ、時々取り出して懐かしむ程度になった。