エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
「急に失職しただなんて言うから心配しちゃったけど、そういう事情だったのね。住む場所も残しておいてもらっているなら、しばらく安心ね」
きりっとした目元を緩めてホッとした顔をする涼帆に、彼女の優しさを感じて心が和む。
涼帆は見た目がクールな印象の美人なので内面まで冷たいのではと誤解する人もいるが、実際の彼女は面倒見がよく情に厚いのだ。
「うん、別に路頭に迷ってるわけじゃないから平気。それどころか、叔父さんに『亜椰ちゃんの好きな北欧でも行ってきなさい』って、お金まで渡されちゃって」
「なるほど。それで私を旅行に誘ったわけか」
「そうなの。涼帆の予定はどう? やっぱり忙しいかな?」
遠慮がちに、涼帆の顔を覗く。すると彼女は申し訳なさそうに眉を下げ、顔の前でぱちんと両手を合わせた。
「ごめん、こんな時期じゃなければ絶対行きたいんだけどさ……今、結婚式の準備でバタバタしてて』
少し言いにくそうに、それでいて声の端々に幸せを滲ませる涼帆。
付き合っている人がいるとも知らなかったので、「えぇっ!?」と声が裏返った。