エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
「ファーストでもビジネスでもなく、エコノミーであればバレないとでもお思いでしたか?」
少し遅れて私の右隣にやってきたのは、同じくビジネスマン風の眼鏡をかけた男性。ここまで走ってきたのだろうか。オールバックに撫でつけられた前髪が少し乱れ、額にきらりと汗が光っている。
「……会議はリモートで参加する。問題ないだろう。航空券も自費だ」
「前回もそう言って海外からリモートで参加し、年長の執行役員たちの反感を買った話はしたでしょう。彼らの嫌味をぶつけられるのは日本に取り残される秘書の僕なんですよ……!」
眼鏡の男性が、間に挟まれた私の存在などないもののように席から身を乗り出し、窓際の男性に訴える。
よくわからないが、美形の男性には日本で出席するべき会議があるらしい。彼らは社長と秘書という間柄のようだ。
「そんなもの、聞き流しておけばいい」
「社長っ」
「大きい声を出すな。隣の女性が困惑している」
社長らしき男性が流し目でちらりとこちらを見たので、反射的に頬が熱くなる。
秘書の男性は恐縮して、自分の席に体を戻した。