エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
「すみません、これは失礼しました。」
「あ、いえ、大事なお話のようですし……席、代わりましょうか?」
「きみ、妙な気を遣わなくても――」
「申し訳ありませんが、お願いできますか?」
美形男性はなんとなく気が進まないようだったが、眼鏡の男性にお願いされ、席を交換する。
そして隣同士になったとたん、眼鏡の男性がこんこんとお説教のような口調で話し始めたので、なんだか悪いことをしてしまったような気分になった。
それにしても、社長と呼ばれた方が怒られている図が不思議だ。
彼らの様子を観察しつつあれこれ考えているうちに、飛行機は離陸態勢に入る。激しいエンジン音とともに機体が上昇すると、突然片方の耳が痛くなって顔をしかめた。
たまにあるんだよね、気圧のせいで耳が痛くなること……。
機体が安定したところで鼻を摘んで耳抜きをしていたら、窓際の席からにゅっと手が伸びてきて、太腿の上にコロンと小さな飴がふたつ乗った。
「着陸の時はこれを舐めるといいですよ。耳が痛くなりにくい」
「えっ? あ、ありがとうございます……」