エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
私は三歳の頃に両親を亡くしていて、叔父と叔母が親代わりとなって私を育ててくれた。
その恩返しの意味もあり、大学を出てすぐ彼らの店で働き始め、接客と買い付けを担当させてもらっていた。
「突然どうしたんですか? 大繁盛と言うわけではなくても赤字というわけじゃなかったですよね? 昔ながらのお客さんだけでなく若いリピーターさんも増えているし、どうして今……」
「亜椰ちゃんには本当に悪いと思ってる。でも、親父が腰を痛めて、思い通りに田んぼでの仕事ができなくなったらしくてね。力になるために、夫婦で静岡に帰ろうかと思ってるんだ」
「お祖父ちゃんが……」
父の実家は静岡県にある米農家。私の父は東京で会社員をしていたし、叔父さんにも自分の店があったため祖父母がふたりで米作りをしていた。
しかし数年前に病で祖母が亡くなると、農協の支援を借りつつも祖父がほとんどひとりで仕事をしている状態だった。
「これまでも何度か『そっちに帰ろうか』と親父に聞いていたんだけど、いつも『大丈夫だ』って突っぱねられるから、まだまだ元気だと思っていたんだけどな」
そう言ってため息をついた叔父さんの表情は弱々しい。祖父のことが心配なのだろう。