エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
「まだ来てない……?」
乱れた呼吸で肩を上下させ、小さく呟いたその時だった。
「そんなに慌てるな。せっかく中まで迎えに行ったのに」
「えっ……?」
呆れの混じった低い声に振り向くと、三つ揃えのスーツに身を包んだ瑛貴さんが目を細めて苦笑していた。
今日一日、無意識に彼のことばかり考えていたせいか、一気に心臓が騒がしくなる。
「ロビーで待っていたんだけど、きみが周囲に目もくれず一目散に出て行ってしまうから焦ったよ。ほら、髪が乱れてる」
こちらに手を伸ばした彼が、頭の上にふわっと持ち上がってしまった前髪を優しく下ろし、整えてくれる。
急な接近にドキッと胸が鳴り、彼の目を見ることができなくなる。
「あ、ありがとうございます」
ネクタイの辺りを見ながら棒読みで応え、心臓が口から飛び出しそうになるのを堪える。
しかし瑛貴さんの方は至極落ち着いていて、私の背にさりげなく手を添え、そばに停まっているタクシーの方へ促した。