エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
「正体を教えてくれるんじゃなかったんですか?」
「そう焦るなよ。こんな場所で種明かしするのはムードがない」
「ムード? そんなもの必要はないと思いますけど……」
「きみは鈍いんだな。ムードを演出する必要のない相手を、食事に誘ったりしない」
動き出したタクシーの中で意味深なセリフを吐くとともに、探るような目で私の顔を覗く瑛貴さん。
どういう意味……?
狭いタクシーの車内というシチュエーションも相まって、じわじわと頬が火照りだす。
これ以上見つめられていたらどうにかなってしまいそうで、必死で別の話題を探した。
「あ、あの、今日は秘書の方は……?」
「ああ、真鍋のことか。ひと足先に日本へ帰ったよ。俺のお守りはもうこりごりだと文句を言いながら」
お守り……。成人男性、しかも社長という立場の相手にかける言葉としては相応しくないような気もするけれど、飛行機でも雑貨店でも、確かに真鍋さんは瑛貴さんになにかしら腹を立てていた。
そういえばこの間涼帆と電話で話した時も『社長は本社にいるのが嫌い』と言っていたっけ。
彼を追いかけてあちこち同行しなければならない真鍋さんには、色々苦労があるのかもしれない。