エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
クスッと笑った彼が、耳元で内緒話のように囁く。彼の言う昔の私とは、幼稚園児の頃の話だろう。
大胆って、結婚を申し込んだこと? それとも、おやすみのキスをねだったこと?
どちらも覚えているんだとしたらかなり恥ずかしいが、幼かった当時の私と比べるのはさすがにやめてほしい。
少なくとも今の私にとって、こんな風に男性と手を繋ぐことは〝この程度〟と呼べるものじゃない。
「もう、からかわないでください」
「からかってない。真剣に口説いてる」
「ぜ、絶対嘘です……!」
「嘘でもない。欲しいものは欲しいと言っているだけだ」
彼は心外そうに眉根を寄せるが、信じられるはずがない。瑛貴さんのような男性に欲しがられる要素が私にあるとは思えないもの。
そこまで考えて、初日に彼とバッタリお店で会った時のことを思い出す。そう言えばあの時、瑛貴さんは欲しいと思った棚の商品をすべて買い占めるような発言をしていた。
もしかして瑛貴さん、ちょっとした好奇心でほしくなったものは、家具でも雑貨でも女性でも手に入れないと気が済まないタイプとか……?
考えれば考えるほど悪い方向へと想像が転がる。いくら初恋の相手だからって、舞い上がりすぎると痛い目を見るかもしれない。
「なんだか信用されていないようだが、そろそろレストランに着く。食べながらゆっくを話そう」
「はい……」
警戒しながらも頷くと、瑛貴さんがようやく手を離してくれる。
短い間握られていただけだと言うのに、私の手は火傷を負ったようにジンジン熱を持っていた。