エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
「すみません、お手洗いで少し酔いを覚ましてきていいですか?」
「構わないが、ひとりで大丈夫か?」
「はい」
化粧ポーチを手に個室を出て、レストラン内のレストルームへ向かう。トイレに行きたいわけではなかったので、鏡の前で軽くメイクを直す。
酔っているせいか、いつもより頬の血色がいい。
……だけどそれ以外は、特段魅力があるわけではない、見慣れた自分の顔だ。
それに容姿はともかく、無職という今の身分じゃ、あんなに素敵な瑛貴さんの隣にはどう考えても相応しくない。
彼の言葉を疑うわけじゃないけれど、この空気に流されてのぼせ上ったら、いつか傷つくのは自分だ。
……美味しい料理とお酒だけ楽しんで、今日のことはただの思い出にしよう。
そう決めると同時に、胸がズキズキと鈍く痛み出す。けれど気づかないふりをして、瑛貴さんの待つ個室に戻る。
「おかえり」と微笑んだ彼から微妙に目を逸らし、精一杯口角を上げる。
「瑛貴さん、さっきのお話なんですが」
「ああ。心を決めてくれた?」