エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
……帰らなきゃ。
喉の奥にこみ上げる熱いものをぐっと飲みくだし、ソファに置いたままだったバッグをパッと掴んだその時、ガチャッと扉の開く音がした。
とっさに胸にバッグを抱きしめて情けない顔をすると、バスローブ姿の瑛貴さんが怪訝な顔をする。
「どうした? 大事そうにバッグを抱えて」
「よ、用事を思い出したんです……。帰らないと」
適当な嘘をつき、彼と一定の距離を保ったままじりじり部屋の出入り口へ足を進める。
瑛貴さんがひゅっと目を細めたのでどきりとする。
「……だったらタクシーを呼ぼう。こんな時間に女性をひとりで歩かせるわけにはいかない」
「いえっ、お気遣いなく――」
「ただし、本当に用事があるならな」
鋭い声に心を貫かれたような気がして、肩が小さく震える。あっけなく嘘を見破られた気まずさで床の一点だけを見つめていると、ゆっくり歩み寄ってきた瑛貴さんが目の前で足を止める。
頬にスッと添えられた手が、私の顔を優しく引き上げた。
「きみが嘘をつくときに目を逸らす癖はもうわかってる。俺と一緒に過ごすことが嫌になったのなら、見え透いた嘘をつくんじゃなく、俺の目を見てちゃんと拒んでくれ。それがきみの確かな意思なら尊重する」