エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける

 人口の少ないこの町には、保育所やこども園など未就学児を長い時間預かってくれる施設は少なく、幼稚園までは家庭で保育する人が多い。

 叔母さんもそれを知っているから、再就職は焦らなくていいといつも私を諭す。

 田んぼでのお手伝いを申し出たこともあるが、近くに川が流れていたり、大きな農耕車が行ったり来たりするので胡桃を連れて行くのは危険で結局実現しなかった。

 胡桃の育児に集中できるのはとてもありがたいが、何もできない自分を歯痒く感じてしまう。

「でも……」
「亜椰ちゃんと胡桃ちゃんは、私たち夫婦にとって実の娘や孫と変わらないの。だから私たちが元気なうちに、いっぱい世話を焼かせてちょうだい。お節介かもしれないけどね」
「叔母さん……」

 そう言われてしまうと、それ以上言い返すことはできなかった。

 大切な家族でも、いつかはお別れの日が来る。

 私は両親を亡くしているし、胡桃が一歳の時には元々この家の主だった祖父とのお別れも経験したから、健康なうちに家族とたくさん思い出を作りたいと願う叔母さんの気持ちは、痛いほど理解できた。

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