エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける

 室内へ上がった叔母さんの後を追いかけて台所の方へ向かう胡桃。私は出しっぱなしのおもちゃを片付けつつ、胡桃が遊んでいた木製のままごとキッチンに触れた。

 彼は、どうしてこれだけ送ってきたんだろう。自分の手元にあるのが煩わしかっただけかな……。

「まーま! なしたべよ~!」

 感傷に浸りかけていたその時、胡桃の足音が近づいてきて、振り向く。

 胡桃は叔母さんが切り分けてくれた梨の皿を大事そう両手でに持ち、ちょっぴり危なっかしい動作でテーブルにのせた。

 ままごとが好きな影響もあるのか、胡桃はこうしたお手伝いも大好き。半年前くらいはお皿をひっくり返す失敗もあったけれど、最近はほとんどない。

 短い間でずいぶん成長した娘の姿に、親としての幸せを感じる。胡桃の存在が心の支えだ。

「上手に運べたじゃない。梨、美味しそうね」
「いただちますしていい?」
「ちょっと待って。叔母さんが来てからね」
「はいはい、お待たせ~」

 台所から出てきた叔母さんから果物フォークを受け取り、三人で「いただきます」と手を合わせる。

「おいひ~」
「胡桃、お話はごっくんしてから」
「ふぁい」
「ふふっ。胡桃ちゃんに美味しく食べてもらえて、梨さんも喜んでるわ」

 叔母さんの言葉に、梨を頬張ったまま嬉しそうに目を細める胡桃。たとえ父親がいなくても、私たち取り巻く環境は常に優しく穏やかだ。

< 78 / 155 >

この作品をシェア

pagetop