エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
瑛貴さんの鋭い瞳に見つめられると、嫌でもフィンランドでの一夜が脳裏をよぎり、胸がかき乱される。
たったひと晩一緒に過ごしただけなのに、彼の見せた表情や仕草、肌や吐息の温度まで、今でもこの胸に深く刻まれている。
だけど……。
私は唇を噛みしめ、ギュッと拳を握った。
「お引き取り下さい。あなたと話すことはなにもありません」
そう口にして、まっすぐ彼を見つめ返す。
どんなに忘れられない相手でも、今の私にとっては受け入れられない。
突然現れて、大切な我が子、そして親切な叔父や叔母との平穏な生活を壊されたら、たまったものじゃない。
子猫を守るため、毛を逆立てて敵を威嚇する親猫になった気分で、ジッと瑛貴さんを睨みつけた。
「きみになくても、俺にはある」
「そんな屁理屈……っ」
「屁理屈をこねてでも、今日はこれを渡すと決めていたんだ」
スーツの懐に手を入れた彼が細長い指先で取り出したのは、シックなシルバーグレイのリングケース。呆気にとられる私の目の前で、瑛貴さんは静かにそれを開いた。