エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
スマホを私の手に返すと同時にそう言って、余裕たっぷりに微笑む瑛貴さん。
お城なんかに例えられて腹が立つ反面、細められた目から漂う彼の色気に、不覚にも胸がドキンと鳴った。
結婚を申し込んできた意図もわからないしわかったところで了承するつもりもないのに、これじゃ彼の思うツボだ。
「用が済んだのならお引き取りを」
できるだけ険しい顔を作り、冷たく言い放つ。
「わかったよ。胡桃ちゃんを待たせているのも悪いし、今日は大人しく引き上げよう」
ようやく瑛貴さんが私に背を向けてくれ、ホッとする。しかし出て行く直前になって、瑛貴さんはこちらを振り返り、私に真剣なまなざしを向けた。
「今日まで、何度きみの夢を見たかわからない。……会えてよかった」
切なげな声に胸が締め付けられる感覚がしたものの、私が何か言う前に瑛貴さんは玄関を出ていった。
彼への想いを閉じ込めてある心の深い場所に、小さな痛みが走る。
……私だって、あなたの夢を何度見たかわからない。
閉まった扉を見つめ、心の中でひとりごちる。でも、過去に浸っている場合じゃない。