エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
「ごめんね胡桃、お待たせ!」
「みてママ、うさぎさん、ピンクにした」
「すご~い! 全然はみ出してないし、かわいい色で塗ったね」
胡桃の待つ部屋へ戻ると、ほんの一瞬でも母から女に戻った自分を戒めるように、娘のぬり絵を褒める。
得意げにニコニコする胡桃がいつも通りにかわいい反面、くっきりとした二重まぶたは瑛貴さん譲りであることを久々に思い出して、胸に複雑な思いが広がる。
……いったい、彼はどういうつもりで結婚を申し込んできたのだろう。
胡桃が自分の子だと知っていて?
いや、それはないだろう。瑛貴さんは、家具を含めた生活用品の製造販売を行う大手企業、紫藤ホールディングスの御曹司。隠し子の存在なんてスキャンダルでしかない。
だとすると、私自身に興味が……?なんて、それこそありえない話だ。
興味があるならもっと早くに探し出してくれただろうし、そもそも彼とは住む世界が違う。無条件に親しくなれたのは、なんのしがらみもなかった子どもの頃だけだ。
考えても答えは出ず、ため息をつく。その時ふと、例のままごとキッチンが視界に入った。
……どうしてだろう。この世にひとつだけの小さなあのキッチンが、私と瑛貴さんをいつも巡り合わせる。
今回も、瑛貴さんはあれを見て私がここにいると知った。
「つぎは、キリンさんぬるの」
夢中でクレヨンを手に取る胡桃に、笑顔を向ける。
「キリンさんかぁ。上手に塗れるかな~?」
新しいぬり絵に取り掛かる胡桃を見守りつつも、どこかぼんやりしてしまう。
その理由が確実に瑛貴さんの存在であることはわかっていて、考えないようにしようと思っても、彼のことばかりが頭の中をぐるぐると駆け巡った。