生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜

10.結界を張り直そう3

 一年前に現れた聖女様は、ルーカス様の婚約者ではなかった。

 少し嬉しい気持ちは奥に置いといて、私はふと思った。

 あれ?聖女は王位継承者と結婚する習わしなのよ?この国を導いていくのは間違いなくルーカス様。何で第二王子のジェイル様?

 ジェイル様は側妃の子で、ルーカス様より六歳下。継承権第二位でありながらも、ジェイル様はルーカス様をとても慕っていて。

『僕は兄上のお役に立てるように勉強頑張ります!』

 と可愛く笑っていた。この二人は争うこともなく、手を取り合い、国を守っていくと思っていた。

 ジェイル様に婚約者が出来るのは良い。それが聖女であっても。

 でも、『リヴィア』亡き今、ルーカス様よりも先に聖女とご婚約されるとは……

「ルーカス様が王位につかれるのですよね?」

 私は不安に駆られ、そんな質問をした。

「リリア、いつの間にそんなに賢くなったんだい」

 アレクは困った笑顔で私を膝の上に乗せた。

 まあ、十歳が王位継承権を気にするなんて、よね。

「私もフォークス辺境伯家の娘ですから」

 そう言うと、アレクは「立派になって!」と涙ぐみながら納得してくれた。

 やはり親バカだ。

「お前も他の令嬢たちのようにゴシップに興味があるのか?」
「ルーカス!」

 ルーカス様の言葉に、アレクが厳しく遮った。
 
 さっきまで可愛くそっぽを向いていたのに、ルーカス様はまた冷たい瞳に戻って私を見ていた。

 せっかく距離を縮められたと思ったのに。 

「ルーカスとジェイル様とで派閥が分かれているんだよ。リリアにわかるかな?」

 アレクは十歳の私にもわかるようにと、丁寧に説明してくれた。

 あんなに仲良かったお二人が、今は対立しているらしい。そして聖女を婚約者に迎えたジェイル様の派閥が今にも勢いを増しそうだと。遊んでばかりの聖女なのに。

「王位なんてどうでも良い」

 ルーカス様はポツリと呟いた。私はこの言葉の意味をまだわかっていなかった。だから、自分の気持ちをそのまま伝えてしまったのだ。

「でも私はルーカス様に王位について欲しいです」

 驚いて私を見つめたルーカス様は、すぐに冷たい瞳に戻って。

「なら、お前が私と結婚するか?」
「ルーカス!」

 自虐めいた笑顔で私に向けたルーカス様の言葉に、アレクが怒る。

「冗談だ。俺にはリヴィアしかーー」

 ルーカス様は消え入りそうな声で言いかけて、口をつぐんだ。

「どのみちお前はジェイルとソフィーの間に息子が出来れば婚約させられるだろう」

 冷たい声色で私に言うと、ルーカス様は立ち上がり、「休憩は終わりだ」と言って、馬車に向かって行ってしまった。

 ルーカス様は食事を何も口にしていないように思う。

「ごめんな、リリア。ルーカスは前の聖女様…リヴィア様を忘れられず引きずっているんだ」

 お父様は私の頭を撫でて教えてくれた。

 ルーカス様が『リヴィア』をまだ……?

 嬉しいと思う気持ちもあったけど、そんなのは悲しすぎる。だって『リヴィア』はもうこの世にはいないのだからーー

 幸せに暮らしていて欲しいと思っていたルーカス様はちっとも幸せそうじゃなかった。

 私がルーカス様にしてあげられることは何かあるんだろうかーー?

 私は片付けを手伝いながら、そんなことを思った。

「あいつに、リヴィアの生まれ変わりだって言ってやれば?」

 マフィンをお腹いっぱい食べたトロワは満足そうに宙を浮きながら言った。

 精霊だと話したので、普通の猫のフリをする必要がなくなったのだ。

「そんなこと、言えるわけないじゃない!」
「えー、どうしてだよー?」
「私は今はリリアなのよ? それに、信じるわけないわ……」
「まあ、俺はリリアのやりたいようにやれば良いと思うよ?」

 トロワは言いたいことを言うと、私の肩にちょこんと乗り、「しばらく寝るわ」と言った。

 なんて自由な。

 今のルーカス様には『リヴィア』が必要なんだろうか。

 うーん、考えても仕方ない!とりあえず今は結界を強化して回らないとね。
 
 そうして片付けを終えた私はまたアレクの馬に乗って、結界巡りを始めた。

 二箇所目の結界は少し亀裂が入っていたものの、トロワの力を借りて修復と強化を難なく終えた。

 そして三箇所目の結界の場所に近付いた時だった。

「魔物だ!」

 突如現れた魔物の大群に近衛騎士たちがざわめく。

「落ち着け! 隊列を整えろ!」

 アレクの指示に近衛騎士たちも落ち着きを取り戻し、魔物に応戦し始めた。

「こりゃ、結界が破損してるな」

 肩の上で寝ていたトロワがいつの間にか目を覚まして、言った。

「でも、ここを通らないと結界に近づけない……」

 私はアレクに結界のことを伝えた。

「大丈夫だよ」

 アレクは私の頭をクシャッと撫でて、微笑んだ。

 そして私を馬から降ろし、抱きかかえると、ルーカス様の馬車へと連れて行った。

「お父様……?」
「お前はルーカスとここにいるんだ。必ず、結界への道は作るから」

 アレクはそう言って、馬車に私を乗り込ませると、「ルーカス、リリアを頼んだぞ!」と言って、剣を手に走り出した。

「お父様ーー!!」

 私は叫んだけど、アレクは振り返らずに行ってしまった。

「近衛隊もアレクも強いから大丈夫だ」

 私が心配そうにしていると、ルーカス様の声が後ろからした。

 振り返ると、私を慰めるために言ったのでは無いとわかった。

 その表情は冷たいままで。

「リヴィアが命をかけて守った国だ。近衛隊たちも命をかけるのは当然だろう?」

 な……ん……

 私はルーカス様の思いやりもない言葉に驚愕した。

「確かに、近衛隊には国を守る責務があるけど! それと命をかけることは別だわ!」

 昔、ルーカス様に同じことを言ったことがある気がした。それはルーカス様も同じだったみたいで。

「リヴィア……?」

 ルーカス様がポツリと溢した、一瞬の間のうち、ドオンと凄い音が外で響いた。

「何だ?!」

 ルーカス様が馬車を出たので、私も慌てて続く。

 外に出た私たちは、目を疑った。

 そこにいたのは、この十年見ることも無かったドラゴンがいたからだ。
< 10 / 52 >

この作品をシェア

pagetop