生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜
13.ユーグ・レベスキー
私がルーカス様の客間までたどり着くと、ワゴンを下げるメイド長と鉢あった。
「リリア様」
「ルーカス様はどう?」
私の問に、メイド長は困った顔で右手を頬にやった。
「それが、お食事を召し上がらなくて……」
メイド長は、視線の先のクローシュを持ち上げて見せてくれた。
私はめいっぱい背伸びをして、ワゴンを覗き込む。
倒れたルーカス様のために用意されたのは、料理長特製の温かいスープと色とりどりのフルーツ。
近衛隊が毒味をしたであろう一口分だけが減っている。
「ルーカス様は先代聖女様が亡くなってからお食事をあまり取らなくなってしまったみたいですよ」
メイド長と話していると、入口を警護していた若い近衛隊員が話しかけてきた。
「えーと……」
「ユーグ・レベスキーです。聖女様」
レベスキーといえば、侯爵家だ。
私は礼をしてから言った。
「私のことはリリアと呼んでください。レベスキー様」
「では、僕のこともユーグと呼んでください。リリア様」
屈託なく笑うその笑顔はどこか人懐こい。赤みがかった茶色の髪の彼は、緑の瞳を輝かせて、私に手を差し出した。
「はい、ユーグ様」
差し出された手を取ると、ユーグ様は満足そうに微笑んだ。
「お若いのに近衛隊にいらっしゃるなんて凄いですね」
私がそう言うと、ユーグ様は緑色の目をパチクリさせると、ズイッと顔を近づけて来た。
「やはりリリア様は聡明なお方ですね! 自分は十六ですが、十歳のリリア様より子供に思えてしまいます」
「えっ、そんなことは…」
近づけた顔をニパッと綻ばせ、ユーグ様が言うので、いやいや、貴方の方が凄いですよ、と言った。
「だって、あのルーカス様を言い負かしてしまうんですから」
ユーグ様は嬉しそうに話してくれた。私は近衛隊員たちの前でルーカス様と言い合ってしまっていた。
でも隊員たちはそれを良く思ってないんじゃないかな?と思っていたら、どうやら逆らしい。
「私たちを気にかけてくれて嬉しい!」とか、「よく言ってくれた!」と好感触らしい。
嬉しいやら恥ずかしいやらだけど、逆にルーカス様の支持を下げてしまってないかな?と不安を口にしたら、「それは無い」とユーグ様が言ったので、安心する。
「自分たち若い隊員も、リヴィア様と殿下のご活躍と悲劇は知っています」
そう語るユーグ様からは、さっきまでの屈託のない笑顔は消えていた。
その言葉から、ルーカス様がああなってしまったのは、リヴィアが死んでからだと不意にすとん、と理解してしまった。
『何がルーカス様を変えてしまったのか』
心の奥ではわかっていたのかもしれない。でも何だかおこがましい気持ちで奥にやっていた。
でも。ルーカス様は私のせいであんなになってしまったのだ。
改めて、ルーカス様を何とかしなくちゃ!と思っていると、ユーグ様がこちらを見て笑っていた。
不思議に思って首を傾げると、ユーグ様が口を開く。
「昔から近衛隊にいる先輩は、まるでリヴィア様が帰ってきたようだと」
ユーグ様は『リヴィア』のことを知らない。でも私の心臓が跳ね上がる。
「流石聖女様。やはり性格とかが似るんですかねえ? いや、でもそうすると、王都の聖女様は?」
ドキリとした私を他所に、ユーグ様は笑顔で言うと、自問自答していた。
聖女というのがそういうものだと思ってくれているらしい。
「あの、それでルーカス様があまりお食事を取らないというのは?」
話がだいぶ逸れたので、私はユーグ様に改めて聞いた。
「ああ、自分も副隊長に聞いた話なのですが、殿下はリヴィア様が亡くなられてからは食事をあまり取らず、リヴィア様が残されたポーションを飲まれているとか」
「えっ!」
ユーグ様の衝撃の話にどこから突っ込んで良いのかわからない。
まず、近衛隊の副隊長ともあろう人が、同じ近衛隊の隊員とは言え、第一王子であるルーカス様の体調のことをペラペラ喋っても良いのだろうか。
そして、ルーカス様!!
『リヴィア』の作ったポーションを十年大事にチビチビ飲んで来たって??
呆れた!あれは医療が必要な人のために作ったのに。でも、もう十年よ?流石に私のポーションなんて残ってないんじゃないかしら。
それにしても、だからルーカス様のお顔はあんなに血の気が無くて冷たく見えるんだ。
色々情報を得た私が考え込んでいると、「ゴホン」というメイド長の咳払いが聞こえた。
あ、しまった。ルーカス様の部屋の前で長話をしてしまった。メイド長は何でここに来たのかという目で見ている。
ユーグ様にはまだ聞きたいことがあるけど、仕方ない。
私はとびきり子供らしい笑顔で言った。
「ユーグ様、私、ルーカス様のお見舞いに来たのです。入ってもよろしいですか?」
ユーグ様はチラリとドアの方へ目をやると、あっさりと答えた。
「ルーカス様は人払いをされて今お一人ですが……リリア様なら大丈夫でしょう」
うーん、聖女だからってこんなに簡単に良いのかな?
まあ辺境伯家の娘であり、聖女。しかもこの屋敷の住人だから安全なんだけどね。
そしてメイド長はワゴンを引いて去り、私はユーグ様が開けてくれた扉を通って、客間に入ったのだった。
「リリア様」
「ルーカス様はどう?」
私の問に、メイド長は困った顔で右手を頬にやった。
「それが、お食事を召し上がらなくて……」
メイド長は、視線の先のクローシュを持ち上げて見せてくれた。
私はめいっぱい背伸びをして、ワゴンを覗き込む。
倒れたルーカス様のために用意されたのは、料理長特製の温かいスープと色とりどりのフルーツ。
近衛隊が毒味をしたであろう一口分だけが減っている。
「ルーカス様は先代聖女様が亡くなってからお食事をあまり取らなくなってしまったみたいですよ」
メイド長と話していると、入口を警護していた若い近衛隊員が話しかけてきた。
「えーと……」
「ユーグ・レベスキーです。聖女様」
レベスキーといえば、侯爵家だ。
私は礼をしてから言った。
「私のことはリリアと呼んでください。レベスキー様」
「では、僕のこともユーグと呼んでください。リリア様」
屈託なく笑うその笑顔はどこか人懐こい。赤みがかった茶色の髪の彼は、緑の瞳を輝かせて、私に手を差し出した。
「はい、ユーグ様」
差し出された手を取ると、ユーグ様は満足そうに微笑んだ。
「お若いのに近衛隊にいらっしゃるなんて凄いですね」
私がそう言うと、ユーグ様は緑色の目をパチクリさせると、ズイッと顔を近づけて来た。
「やはりリリア様は聡明なお方ですね! 自分は十六ですが、十歳のリリア様より子供に思えてしまいます」
「えっ、そんなことは…」
近づけた顔をニパッと綻ばせ、ユーグ様が言うので、いやいや、貴方の方が凄いですよ、と言った。
「だって、あのルーカス様を言い負かしてしまうんですから」
ユーグ様は嬉しそうに話してくれた。私は近衛隊員たちの前でルーカス様と言い合ってしまっていた。
でも隊員たちはそれを良く思ってないんじゃないかな?と思っていたら、どうやら逆らしい。
「私たちを気にかけてくれて嬉しい!」とか、「よく言ってくれた!」と好感触らしい。
嬉しいやら恥ずかしいやらだけど、逆にルーカス様の支持を下げてしまってないかな?と不安を口にしたら、「それは無い」とユーグ様が言ったので、安心する。
「自分たち若い隊員も、リヴィア様と殿下のご活躍と悲劇は知っています」
そう語るユーグ様からは、さっきまでの屈託のない笑顔は消えていた。
その言葉から、ルーカス様がああなってしまったのは、リヴィアが死んでからだと不意にすとん、と理解してしまった。
『何がルーカス様を変えてしまったのか』
心の奥ではわかっていたのかもしれない。でも何だかおこがましい気持ちで奥にやっていた。
でも。ルーカス様は私のせいであんなになってしまったのだ。
改めて、ルーカス様を何とかしなくちゃ!と思っていると、ユーグ様がこちらを見て笑っていた。
不思議に思って首を傾げると、ユーグ様が口を開く。
「昔から近衛隊にいる先輩は、まるでリヴィア様が帰ってきたようだと」
ユーグ様は『リヴィア』のことを知らない。でも私の心臓が跳ね上がる。
「流石聖女様。やはり性格とかが似るんですかねえ? いや、でもそうすると、王都の聖女様は?」
ドキリとした私を他所に、ユーグ様は笑顔で言うと、自問自答していた。
聖女というのがそういうものだと思ってくれているらしい。
「あの、それでルーカス様があまりお食事を取らないというのは?」
話がだいぶ逸れたので、私はユーグ様に改めて聞いた。
「ああ、自分も副隊長に聞いた話なのですが、殿下はリヴィア様が亡くなられてからは食事をあまり取らず、リヴィア様が残されたポーションを飲まれているとか」
「えっ!」
ユーグ様の衝撃の話にどこから突っ込んで良いのかわからない。
まず、近衛隊の副隊長ともあろう人が、同じ近衛隊の隊員とは言え、第一王子であるルーカス様の体調のことをペラペラ喋っても良いのだろうか。
そして、ルーカス様!!
『リヴィア』の作ったポーションを十年大事にチビチビ飲んで来たって??
呆れた!あれは医療が必要な人のために作ったのに。でも、もう十年よ?流石に私のポーションなんて残ってないんじゃないかしら。
それにしても、だからルーカス様のお顔はあんなに血の気が無くて冷たく見えるんだ。
色々情報を得た私が考え込んでいると、「ゴホン」というメイド長の咳払いが聞こえた。
あ、しまった。ルーカス様の部屋の前で長話をしてしまった。メイド長は何でここに来たのかという目で見ている。
ユーグ様にはまだ聞きたいことがあるけど、仕方ない。
私はとびきり子供らしい笑顔で言った。
「ユーグ様、私、ルーカス様のお見舞いに来たのです。入ってもよろしいですか?」
ユーグ様はチラリとドアの方へ目をやると、あっさりと答えた。
「ルーカス様は人払いをされて今お一人ですが……リリア様なら大丈夫でしょう」
うーん、聖女だからってこんなに簡単に良いのかな?
まあ辺境伯家の娘であり、聖女。しかもこの屋敷の住人だから安全なんだけどね。
そしてメイド長はワゴンを引いて去り、私はユーグ様が開けてくれた扉を通って、客間に入ったのだった。