生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜

20.もう一人の聖女

「よく来たね」

 謁見の間に通された私たちは陛下に向かって深く礼をすると、頭を上げるように言われた。

 『リヴィア』としてお会いして以来の国王陛下。金色の髪は、白髪交じりになって、顔のシワも増えた。それでも威厳のあるお姿だけど。

 やつれていらっしゃる……?

 病気で床に伏せっていることが多いと聞いてはいたけど、大丈夫なのかな?

「もう一人、聖女が見つかったとは喜ばしい」
「はい。この者との婚約を認めていただき、ありがとうございます」
「聖女が王族と婚姻を結ぶのは慣習だからな」

 陛下は笑顔で私たちを祝福してくださった。

「ルーカス、もうリヴィア嬢のことは良いのかな?」
「………はい。私はこの国を守るために力を尽くします」

 父親としての心配を滲ませた陛下の言葉に、ルーカス様は一瞬、間を置きながらも答えた。

 きっとルーカス様の中にまだ『リヴィア』はいる。それでも前に進むと決めたのだろう。

「そうか……」

 それだけ言うと、陛下は、私に目を向けた。

「ルーカスを頼んだぞ」
「はいっ!!」 

 私は慌てて深くお辞儀をして答えた。

 陛下が私に向ける眼差しは優しかった。

 十歳のリリアを一人の聖女として尊重してくださる所はルーカス様と同じで。

 変わらない温かさに胸をじんわり感じながら、陛下への謁見は終わった。

「お前、さすが令嬢だな」
「は?」

 陛下への謁見が終わり、馬車に向かう途中の廊下で突然ルーカス様が私に失礼なことを言ってきた。

「子供のくせに仕草は洗練されているし、陛下の前でも物怖じしなかった」
「うちのリリアはそんなに堂々としていたか!」

 外で控えていたアレクは、合流するなり、護衛をしながらも会話に入り込んできた。

「叔母様のご教育の賜物です」

 にっこりと微笑んで答えると、二人とも納得してくれた。

 確かにフォークス領では淑女としての教育を受けさせて貰っていたが、一番は『リヴィア』の経験がものをいっている。

『リリア』はもっと子供らしかったけど、今更元のようには振る舞えない。

「俺を置いていくなよー!」

 そんなことを考えていると、馬車からトロワが飛び出して来た。

「だってトロワ寝てたじゃない」

 陛下に挨拶したらすぐに戻る予定だったので、寝ていたトロワを馬車に置いてきたのだ。

「俺は常にリリアと一緒だ!」

 ブーブー言うトロワを宥めながら、私は彼を撫でた。

「リリア、行くよ?」

 トロワと話していると、アレクから呼びかけられ、私は馬車に向かおうとした。すると。

「あなたが第二の聖女?」

 私たちが出てきた出入口とは違う所から、一人の女性が、男性に連れられて出てきた。

 ストロベリーブロンドのサラサラの髪がぴったりな可愛らしい女の子。その可愛らしさを更に飾り立てるような豪奢なドレス。上から下まで宝石がびっしりと付いている。

 よく見たら、髪、首、腕、指といった至るところにも、宝石付きのアクセサリーを身に着けている。

 可愛いのに、派手だなあ……と思っていると、最初に口を開いたのはルーカス様だった。

「私に会いに来るなんて珍しいな、ジェイル」

 ルーカス様が皮肉めいた笑顔を向けた先の男性を見ると、黒い髪にルーカス様と同じ青い瞳。

 えっ?!ジェイル様?

 『リヴィア』が死んだ年では、まだ十歳だった。

 大きくなって……!!

 すっかり大人になった彼を見て、私は何だか親のような気分になってしまう。

 十年前はルーカス様をとても慕っていて、無邪気な笑顔が可愛かった。でも今は……

「兄上が聖女と婚約したと聞きましたので、お祝いに」

 お祝いと言いながらも、ルーカス様を見る目は冷めていて、どこか馬鹿にしているようだった。

「本当にこんな子供が聖女なんですか?」

 その冷たい瞳は私にも下ろされる。

 兄弟揃って何なの、もう!

「お前の婚約者よりは働き者だと思うが?」

 私が馬鹿にされると、ルーカス様はすぐさま反撃してくれた。そしてジェイル様の隣のストロベリーブロンドの女の子に目線をやる。

 この子が一人目の聖女!

 ルーカス様の言葉で、『遊んでばかりの聖女』がこの女の子なのだと、私は理解した。

「ルーカス様っ!!」
「兄上! ソフィーはちゃんと役目を果たしています! 王都の結界だって、ソフィーが張っているのですよ」

 ソフィー様とジェイル様はルーカス様の皮肉に、怒って返した。

 ルーカス様も何でこんな言い方するんだろう。
兄弟仲、何でこんなに悪くなってるの?

 ルーカス様は、「そうか」と一言言うと、私の肩に手を置いて二人に紹介した。

「では、改めて紹介しよう。私の婚約者で聖女のリリア・フォークスだ。陛下にも許しを得ている」
「初めまして。リリア・フォークスと申します」

 ルーカス様に紹介されたので、私は二人に礼をして挨拶をした。すると二人も形式上の挨拶をすると、やっぱり馬鹿にしたような顔で。

「ジェイル・クローダーだ。兄上がまさか本当に子供と婚約するとは」
「ソフィー・コンツァです。うふふ。この国のことは私に任せていれば良いわよ?」

 二人は私が子供だから馬鹿にしているらしい。

 まあ、これが普通の反応よね。

「今更、王位に興味を持ったのかと来てみれば、兄上はやはり、どうでも良いようですね」

 ジェイル様はルーカス様にそう言うと、ソフィー様と一緒に去ってしまった。

 ジェイル様が一瞬見せた寂しそうな表情に、私は違和感を覚えながらも、嵐のように過ぎ去った二人を見送り、呆然としていた。
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