生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜

23.近衛隊へ2

「リリア、ついたぞ」

 馬車の中で眠ってしまった私は、アレクの呼びかけで目を覚ました。

 近衛隊の隊舎は、王宮の敷地内にあり、見上げれば、そびえ立つ立派な建物が見える。

 近衛隊は騎士団の中でも少数精鋭だけど、隊舎はお屋敷かってくらい大きく、奥には広い訓練場もあるようだった。

 アレクはこの中で隊長をやっているんだ……。

 改めて凄いなあ、と思う『リヴィア』と『リリア』がいた。

 馬で馬車を護衛するように付いてきてくれたユーグ様は、扉を開けると、手を差し出してくれていた。

「あ、ありがとうございます」
「リリア様、自分に敬語は必要ないですからね?」
「ええと、そういうわけには……」
「護衛しにくいですからおねがいします」
「わかった……」

 話し方に護衛なんて関係あるかな?と思ったけど、ユーグ様が強く言うので、私は従うことにした。

「ずるい……。私もリリアの護衛したいっ!」
「もうっ、お父様が決めた護衛でしょ?」

 後ろでヤキモチを焼き、拗ねるアレクに、私はやれやれ、と宥める。

「相変わらずの親バカだな」

 私の肩の上にいたトロワがニャーンと鳴く。

「ううっ、トロワにまで呆れられている気がする」
「まあまあ、隊長。僕がしっかりリリア様を守りますから」
「頼んだぞ、ユーグ!」

 隊長と部下の会話にしては、何とも気さく。フォークス領に来ていた近衛隊の人たちを見て思ったけど、皆仲良しだ。

 アレクの人柄がそうさせているのだろうけど。

「あ、そういえばルーカス様は?」

 アレクの執務室まで来た私たちは、空っぽの部屋を見て、ふと疑問を口にした。

 『リヴィア』の時、魔物討伐といえば、ルーカス様も一緒だった。

「ああ、ルーカスは王都を離れていたせいで公務が溜まっているから、しばらくは顔を見せないよ」

 アレクの説明に、そういえばベッドの上でも常に書類に目を通していたな、と思い出す。

「結界修復くらいなら大丈夫だろうと私たちに一任されているよ」

 そっか、ルーカス様は来ないのか。

 ルーカス様に会えなくてがっかりしている自分に気付いたけど、その気持ちは奥に押しやる。

「あれえ? リリア様、もしかして殿下が来なくて寂しいんですか?」

 私の気持ちを察してなのか、ユーグ様が顔を覗いて来たので、びっくりする。

「ち、違います!」

 突然言い当てられたから、顔が赤いに違いない。

「ふーん。偽の婚約って聞いていたのに、随分仲がよろしいんですね」
「ユーグ!」

 ユーグ様の言葉に、さっきまで和やかだった空気が一瞬でピリッとする。

 何でユーグ様が知っているの?

「……誰に聞かれるかわからないんだぞ」
「申し訳ございません。でも、ここなら安全じゃないですか?」

 ユーグ様の言葉に、アレクはふう、と息を吐いて私を見た。

「リリア、驚いただろう。ごめんな?」

 執務室のソファーにアレクと並んで座った私は、彼の大きな手で頭を撫でられた。

「今回の婚約の事実を知っているのは、当人たちと、私、護衛のユーグ、副隊長の五人だ」
「リリア様をきちんと守るためですので。申し訳ございませんでした」

 二人の説明に驚いたけど、確かに全員を騙せるわけもなく。協力者は必要だ。

「いずれ婚約破棄するなら、僕にもチャンスはあるかなって思っていたので、つい意地悪を言っちゃいました」

 ペロっと舌を出してユーグ様が冗談を言うので、場の空気が和む。

「リリアはまだ誰にもやらん!」

 アレクもすっかりいつもの親バカに戻っていて。私はホッとして二人を見ていた。

 そんな和やかな空気の中、執務室のドアがノックされた。

「入れ」

 アレクは誰が来るかわかっていたような口ぶりで。

「失礼いたします」

 アレクの言葉にドアを開けて入って来たのは、隊服を来た近衛隊員のようだった。

 黒い髪に黒い瞳。

 どこか懐かしい顔。そう思っていると、アレクが声をかけた。

「来たか、イスラン」

 イスラン……?『リヴィア』の記憶が胸を打つ。

「リリア、私の腹心、副隊長のイスラン・ラヴェルだよ」

 アレクの紹介に、記憶が鮮明に蘇る。

「イスラン・ラヴェルです。初めましてリリア様」
「リリア・フォークスです。初めまして……ラヴェル副隊長」

 イスランの挨拶に何とか『リリア』として返事を返した。

「リリアが赤ちゃんの時に会っているから、正確には初めてじゃないよな」

 アレクが呑気な顔で、イスランの肩に手を置いた。

 十年前、王子二人の仲は良かった。だから気にすることは無かった。でも、今はーー?

 私はごくりと喉を鳴らしてイスランを見る。

 だって、イスランはジェイル様の従者だった。近衛隊の隊長になってもルーカス様に付くアレクのように、イスランもそうである可能性は高い。

 そうしたら、イスランは第二王子派ということになる。

 そしてイスランは、私を値踏みするような目付きで私を見下ろしていた。
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