生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜

28.聖女様の研究室

「わあ、立派!」

 翌日、ルーカス様との面会で王城に行った私は、ある部屋に連れて行かれた。

 白を基調とした清潔さ溢れるその部屋には、ポーション作りに必要な薬草が瓶に詰められ、所狭しと並べられている。

 フラスコなどのポーション作りに必要な器具もズラリと揃えられている。

 子供らしく喜んでみたものの、()には見覚えのある場所。

「リヴィアがポーション作りで使っていた研究室だ。ずっと放置されていたが、整えさせた」

 私の横にいるルーカス様がしれっと言った。

 昨日の今日で、十年放置されていた研究室をここまで整えさせるなんて、流石だ。

「何か不満か?」

 ポカンとルーカス様を見ていた私に、彼は不満そうに言った。

「い、いえ! ありがとうございます!」

 慌てて答えれば、ルーカス様は満足そうに笑った。

 ふと、フォークス領でポーションを作った時のことを思い出す。

「ルーカス様、鍋を厨房からいただいても良いですか?」
「鍋?」

 そう。あのとき、私は鍋でポーションを作った。『リヴィア』の時は、フラスコでちまちま作っていたけど、『リリア』なら鍋で大量に作れる感覚があった。あの時よりも大きな物で。

「鍋で一気に作れば、沢山の人に行き渡ります」
「……わかった」

 ルーカス様は、本当にそんなことが出来るのか?という目で私を見ていたけど、すぐに手配をしてくれた。

 それから、合流したアレクも一緒に、結界修復の計画を練り直した。

「では、そのように手配しておくから明日から頼んだぞ」

 王都から離れた領地の結界修復のため、立ち入りの許可をルーカス様が根回ししてくれることになった。

 クローダー王国は小さな国なので、端っこのフォークス領でも二日で辿り着ける。泊まりがけになるけど、これで王都から離れた結界を修復出来る。

 一番の問題は、王都の結界に手出し出来ないってことよねえ。

 魔王がこちらに来ようとしていた境の結界は、一番強いもので、今も王都を守ってくれているけど。

「作らないのか?」

 考え込む私に、トロワが机の上に乗って呼びかけたので、私はハッと我に返る。

「つ、作る、作る!」

 私は慌てて机の上に並ぶ薬草に対峙した。

「凄い! 質の良いカモミール! エルダーフラワーも!」

 用意されたハーブに思わず興奮する私。

「流石ルーカスと言ったところか」
「そうだね!」

 トロワもハーブを眺めて、ニヤリと言ったので、私も興奮して答えた。

 質の良いハーブが取り揃えられていて、私はルーカス様に感謝した。これならリリアの力で良いものが量産出来るに違いない!

 意気揚々と私は鍋にピックアップしたハーブたちを放り込んでいく。

「その適当そうに見えて最適な目分量の作り方、懐かしいな」

 クックッとトロワが笑って言った。

 『リヴィア』の時も、こんな作り方をしていて、一度見たルーカス様が心配したっけ。

 懐かしい思い出に私にも思わず笑みが溢れてしまう。

 魔法器具を手でこすれば、ボッと火が付いた。

 クツクツとハーブの入った鍋を煮込んでいく。

「やっぱり俺の出番は無いなあ」

 トロワはあくびをかきながらも、鍋をじっと見つめていた。

 そんなトロワを微笑ましく見ながらも、私は鍋に魔力を注ぐ。

 今度は『リヴィア』を意識せずに、ありのまま『リリア』の魔力を注ぐ感覚で。

「ふう」
「お、出来たか」

 鍋を見つめて一息つくと、トロワもパッとこちらを見た。

 そんな彼に頷き、用意されていた空瓶を数個用意する。あとは食材保存用の壺。

 一気に冷却したポーションをまずは瓶に移す。

 瞬間、瓶が光輝いて、瞬く間に虹色に変わった。

「あ、色はリヴィアと同じなんだ。印は……」

 蓋のほうをみると、ラッパみたいな形の花。

「花?」
「それはスイセンを形どっているな」

 私の疑問にトロワがすぐさま教えてくれた。

 『リヴィア印』の百合の形とは違った『リリア印』の水仙の形。

「やっぱり、私は私だよね」

 もしかしたら、『リヴィア』とまったく同じ物になるんじゃないかって、少し怖かった。

「当たり前だろう」

 そんな不安を悟ってか、トロワは私の頭をモフモフの手で撫でてくれた。

 私は嬉しくて、トロワを抱きしめて、「うん!」と返事をした。

 何個か瓶に詰めると、後は何個かの壺に移した。壺ももれなく虹色に変わり、蓋にも水仙の形が施された。

「何で壺?」
「瓶は明日からの遠征用で、治療院にはこの壺を納めるのよ」

 トロワの疑問に私が答えると、彼も納得していた。

「合理的だな」

 『リヴィア』の時には出来なかったことがこうして出来るようになったことが純粋に嬉しい。

 これで治療院にポーションが足りなくなることはない。

 それから、治療院にポーションを納める手続きをルーカス様に取ってもらった。

 一日で大量にポーションを作った私に彼はかなり驚いていたけど、嬉しそうに私にお礼を言った。

「ありがとう。これで治療院もしばらくは大丈夫だろう」
「ルーカス様、素直で怖いです」
「お前なあ……」

 思わずルーカス様にそう言えば、ルーカス様は照れ隠しのように怒った。

「結界修復から戻ったら、また作りますから!」

 ルーカス様の前で、ガッツポーズをしてみせれば、ルーカス様はフッと笑った。

「頼りにしている」

 わわわ……!『頼りにしている』ですって?!あのルーカス様が?

 思いがけない言葉に、私の心がじわりと温かくなる。

「私は一緒に行けないが、気を付けろ。お前がいなくなったら……」

 その優しい眼差しに、心臓がドキンと跳ね上がる。

 ルーカス様?

「お前がいなくなったら……この国は終わるからな」

 ドキドキしていると、ルーカス様は意地悪な顔で言った。

「もう!」
「はは、甘い言葉でも期待したか? ませガキめ」
「ルーカス様、言葉使いが汚いですよ」

 頬を膨らませる私に、ルーカス様はいつまでも笑っていた。

 その笑顔をいつまでも見ていたくて。

 私はとっくにルーカス様のことを好きなんだと、不意に自覚した。

 何度生まれ変わってもあなたに恋をする。

 私はルーカス様が好きだ。
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